水鉄砲に興じる子供たちを公園で見かけました。

風さえもむせ返る熱気を孕んだ雲一つない夏の空は、いつにも増して悪魔的で、僕は水の軌跡がその空気をほんの一瞬切り裂くさまを、すがるように見つめました。

 



 

僕がこの世で最もチェックしないものが2つあって、ひとつはLINEの「知り合いかも?」、もうひとつはLINEのタイムラインです。なんにも発信すべきことなんて持ち合わせていない僕たちが口をパクパクさせて強制的に発信させられております今日、こんなとこでも発信せよとか言われるんかいと。その年貢を搾り取られた水呑百姓感が、LINEのタイムラインには如実に表れています。真っ当にLINEをご活用されている多くの方々のタイムラインはきっと充実しているんでしょう。僕がそれを見ることはありませんが。

 

先日、そのタイムラインが異常な活発さを見せました。初めてのことです。

驚いて見てみますと、そこには白い歯を見せて笑う肌の白い男の写真がありました。

「ついにオープンしました!」

僕が通っている美容院の若い美容師でした。

メシ連れてってくださいよ、飲みに行きましょうよと、僕の髪を染め、洗いながら親しげに誘ってくるアシスタントの男の子。用もないのにホモに犯されそうになっただの、彼女と同棲なんかしなきゃよかっただの、通りがかるたびにくだらない馬鹿話で僕の機嫌をうかがっていた彼が、独立して新しい店を持ったようでした。

 

彼は半年ほど前から突然、僕の担当から外れ、どんなに忙しそうな日でも決して僕の髪を触ることもなく、話しかけてくることもなくなりました。もしかしたら昇格して、自分の客を持つようになったからかもしれません。しかしその頃からの彼は、どことなく手持ち無沙汰で、フロアの真ん中あたりを、独り漂うクラゲの疎外感を放散し、僕と目が合っても微妙な笑顔の会釈を無言で送るのみ。誰がどう見ても居心地が悪そうでした。

 

 

 

 

全身を熱狂させて子供たちは駆け回ります。思うさま水を掛け合い、水道に戻ってはもどかしそうに弾を込め直して再び、砂埃舞う渦に戻っていく。疲れを知らないその様子は夏そのものでした。

その渦から少し離れた大きなイチョウの木の下に、男の子がひとり立っていました。水鉄砲を両手に一丁ずつぶら下げて、木陰でたたずむ彼の顔には笑みが浮かんでいました。佇まいとは裏腹に、目は爛々と輝いて肩で大きく息をする。他の子供たちの様子を眺めて笑顔はさらに痛々しいほど満面に広がり、彼は突っ立ったまま水鉄砲を自らのこめかみに押し当てて、音もなく発射しました。




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このエントリーは、

ルマガ 山本山本佳宏『二十一世紀の未読』

本日配信分の一部を抜粋したものです。

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