腐ったアイボリーが目に染みる。ユニットバスの蛇口を捻る。

硬い音を立ててビジネスホテルのシングルルームに湯気が舞う。

 

何日も、何か月も、何年も、家に帰らずホテルからホテルへ泊まり歩いた。

それは当時の僕の仕事環境と、人間関係と、精神状態の結果だが、だからこそ僕は、ホテルステイの楽しみ方を知らずに過ごしてきた。部屋に入るなり倒れこんで眠る。ベッドから無理やり身体を剥がす。ひたすら目を閉じて頭に熱いシャワーをぶち当てて、濡れた髪のまま仕事場へと戻っていく。僕にとってのホテルステイは、苦痛に満ちた隙間だった。日常と非日常。汗臭さと石鹸臭さ。疲れと疲れ。仕事と仕事。