明けましておめでとうございます。

旧年中はお世話になりました。

本年もよろしくお願い申し上げます。

 

 

これを書いておりますのはクリスマス辺りですので、いつかの12月の思い出を話させていただこうかと思います。

 

大変寒い朝でした。私は寝ぼけまなこでトイレに向かい、大きい方をしようと便座に腰を下ろし、そしてきばりました。

いたっ。

 

新年早々下ネタとか、他人様をナメてるんでしょうか。

 




肛門付近に痛みを感じつつ、それでもまあ、寒い日にうんこが固くて肛門がうっかり切れて痛いなんてことは歳時記のようなものですので気になどいたしませんでした。

昼、痛い。夜、痛い。夜中、痛い。痛い(全員で)。 なかなか痛みが収まりません。座って仕事をしていても、街を歩いていても、パンツの中がピリピリします。あれ? 何で? おかしいな…… もぞもぞとした一日が終わり、お風呂に入ろうと服を脱いで、私は恐る恐る尻の割れ目に指を滑らせてみたのです。

あれ? ……何かある……何かある……何かぷくっとなってる気がする……

あまりの恐ろしさに触れては手を引っ込め、また触っては縮み上がる。洗面台の前で全裸の私は、身をくねらせて命乞いする生贄の処女のようでした。

 

触れた感じで言えば、グリーンピース大の、グリーンピース大学じゃないですよグリーンピース大の何かが尻にある。そして痛い。これは大変まずいことです。風呂に入りながら私は、人生初の肛門科に行くことを決意したのでした。

夜は明け、1223日。

休みやんけ。おい。

今日は病院休み。そのことに気付いた瞬間から尻の痛みが増しました。ベッドに寝転び近所の肛門科を検索します。「肛門科 評判」「肛門科 口コミ」……泣いてしまいそうです。何なんですかこの検索は。グーグルもわろとったわ。

どれだけ探しても、付近の肛門科における評判が全くヒットしません。歯医者はいっぱいあるのに。どこかのおばはんが、ちょうど同じ時期に通っていた別のおばはんと痔の治り具合を毎回報告し合って励みになりましたみたいな投稿をしていて本当にイライラしました。尻もプリプリしました。痔?これは痔なのか?私は痔になってしまったのか? いえ、そんなことはもういいのです。明日は朝起きたら家から一番近い肛門科に黙っていくのです。もうそれでいいのです。

 

クリスマスイブ。午前10時過ぎに病院に着いた時には、待合室はすでにおばはんで埋め尽くされていました。ここにいる全員、尻に何かができているんでしょうか。この待合室にグリーンピース大学がいったい何校あるというんでしょうか。私はおばはんの一人に勧められた椅子を断ってしばらく立ち、おばはんたちの誰よりも早く名前を呼ばれました。

真っ白な髪の老いた医師にも不安を感じましたがそれよりも入れ替わり立ち代わりやってきては世話を焼こうとする看護婦たちに何となくモヤモヤしていました。いや落ち着けと。良い年をした看護婦が何を舞い上がっているんでしょうか。

 

「じゃあ診てみましょうか」と医者に言われ上着を脱ぎ、ベルトを外しながら指示を待ち、何も言われないので振り返るとそこの医者の姿はなく、モジモジと立つ看護婦がひとりいるのみでした。

 

「あのー…どうしたらいいですか」

「え? ああ、そうですね、ズボンを少し下げてもらって…壁側を向いて横向きに寝てください」

 

いつの間にか戻ってきた医者が私の尻を自在にもてあそびます。

血栓性外痔核だと言われました。

肛門の外側が切れて、血豆ができているのだと。

 

「先生、これ原因って何かあるんですか」

「原因はねー、わかんないね」

「え?」

「原因はわかんないんだよねーこういうの」

「……何か、寒いときにきばったりしたら出来るとか、そういう感じでもないんですかね」

「ああ?!」

 

医者と、その後ろに立つ看護婦がユニゾンで頷いています。そういうのもあるかもー、と言わんばかりに。大丈夫ですかここ。ホントに。

 

2週間ほどすれば、ほぼ気にならなくなります。ただ血豆なので、こすれて破れたりすると、パンツが汚れたり、ズボンにシミができたりはするかもしれません」

 

いやめっちゃイヤやん。そんなん。めちゃくちゃイヤ。こんなに世の中にイヤなことがあるかっていうぐらいイヤなことのうちの一つじゃないですか。街歩いてて知らないうちにズボンのケツのところが血まみれになってるとか。無理ですよ。無理心中しますよね普通。

さらに言えば2週間て。年またいどるがな。イヤですよ、尻に血豆ぶらさげたまま新年迎えるのとか。

 

「切って取ってしまう、っていうのはダメなんでしょうか」

「座ることもできないというほどの大きさではないので、どっちでもいいと思うんですけど、切ってしまうこともできます。手術は15分くらいで終わりますから」

「手術のデメリットって何かありますか?」

「え?」

「あの、切らないことに比べてマイナスポイントは何か…」

「うーんそうだねえ、お金がかかります。あとは……お金……そうねえ、お金がかかるかなあ…」

「手術おねがいします」




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このエントリーは、

ルマガ 山本山本佳宏『二十一世紀の未読』

本日配信分の一部を抜粋したものです。

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