弱者必衰の理が逆ピラミッド型に突き刺さった底で蠢く虫けらのように僕はモテません。不細工な上に根性が腐っているんだからしょうがないんですが、それでももし仮に万が一in case、女の人から好かれるようなことがあるのだとすれば、それは仕事ができたからです。自分の男が仕事できることによって得ている社会的地位や肩書きや金、どれを自分に飾って楽しみたいかは女性によりますが、僕がある程度継続して人から好かれるとすれば、それしかありません。

 ありのままの自分とかナメてるんでしょうか。僕から仕事を奪ったら、残るのはビーチに打ち上げられたイカの死骸程度の不快な物体だけです。それを曝け出して愛してくれる人を待つわとか、ナメてるんでしょうか人類を。早朝に砂浜掃除にきたアホみたいな顔のNPOに踏まれて埋まってしまえばいいんです。



 

 僕のような存在が、ギリギリ許されているのならば、それは仕事をしていたおかげです。正確に言えば、こんな僕に唯一許しを与えてくれたのは、東京でそれなりに華やかな業務に従事しているという事のみであり、知らず知らず僕は宗教のようにそれにすがって生きていました。気が狂った大きな都市の小さな共同体にかろうじて生かされているおっさんは、その肩書きなしでは、おっさんでしかありません。ヘラヘラと自堕落な生活を送るだけで社会に何一つ貢献しないおっさんが、どうして人から、マクドナルドのバイトから好かれることができましょうか。

 

 自分が抱えている欲求が、セックスしたいという短絡な性欲か、美しいものを愛でたいという迂遠な性欲か、まだ判断がついていませんでしたが、それでも僕は三日と置かずマクドナルドに足を運び、バニラシェイクを頼み、ストローをくわえて店を出ました。水曜日に行けば必ず会え、金曜日には間違いなくいない。三回に一回くらいの割合で月曜日に居ることもある。嗚呼ついに僕はひと月経つか経たないかのうちにシフト確認までできるようになってしまいました。

 ソフトボールほどの小さい顔が後ろを向けば、何とか縛った黒い髪が帽子の間から小鳥の尾羽のように弾む。うなじの後れ毛や頬の丸みやバランスを欠く大きな瞳、男性客に対する侮蔑と恥じらいの視線、女子中高生への渓流のような笑顔、それらは間違いなく、瞬く間に失われていくはずの不安定で強烈な輝きでした。その辺のアホみたいな顔したヤリチンに捕まって、その刹那をさらに切り上げ浪費したあげくドタバタと結婚などをしてせせらぎは富栄養化する。彼女にもしそんな未来が待っているならば、こんなに悲しいことはありません。

 どうかこの少女が、それなりの野心とそれなりの知性を備えていますように。誰か真っ当な男からそれを教わりますように。そう願わずにはいられないけれども、果たして僕はその真っ当な男の座に座ることを願っているのかと言えば、そもそも真っ当な男の資格さえ持ってはいないのでした。



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このエントリーは、

ルマガ 山本山本佳宏『二十一世紀の未読』

本日配信分の一部を抜粋したものです。

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