暑くなると、どうしてもバニラのマックシェイクが飲みたくなります。なめらかでしっとりしていて冷たくて甘い。全ての要素が単純であり、単純だからこそ間違うことなくダイレクトに届く。

 大人になってしまった僕は500円とか800円とか1000円とか1500円とかの似たような食品を口にし、時としてそれらは大変美味しいものでしたが、美味しいから何だというのでしょうか。こんなケミカルであるがゆえにイノセントである飲み物に、作り手のエゴの臭さを混入しないでほしいのです。濃厚な高級牛乳とか、エッセンスをひと摘みとか、葉っぱ乗せるとか、そういう複雑さは僕には要りません。

 味わって何を思うかは個人の自由。しかしどんな味であるかについての判断に自由を与えない。バニラシェイクとは甘くて冷たくニュルッとしていながら噛んだらシャリっとしているバニラ味であることを知れ、と、それは要求する。僕はバニラのマックシェイクのそういうところを愛します。子供の頃にこんなものを味わってしまったら一生飲むに決まってるでしょうが。



 

 以前住んでいた町の、最寄りのマクドナルドはある日突然、バニラシェイクが劇的に不味くなりました。

 通っていた中華料理屋が不味くなる。そんなのは理解できます。料理人が変わったのかもしれないし、塩の量を間違ったのかもしれない。今日は大将か、それとも僕が、風邪を引いているのかもしれない。そんなことは全く構わない。口の中に生ゴムをぶら下げているだけの僕は驚きもしない。料理ってそんなもんでしょう。食えれば食えたでいいし、不味ければ残せばいい。それは別にいいのです。問題は、全自動の食い物が、ボタンを押して絞り出すだけでのはずの食い物がなぜ不味くなったりするのかということでした。僕はメロス程度には怒りました。

 蓋を開けて中を見ると、こってりとした半透明の蜜のようなものが分離して上澄みとなっています。これは単なる撹拌不足なんでしょうか。上の黄色いトロトロと下の白いカスカスをこのストローで、この僕が店員や機械に代わってしっかりかき混ぜることにより、いつもの、僕が大好きなあのバニラシェイクの味に戻ってくれるんでしょうか。戻りませんでした。僕は走りました。

 なぜこんなワンタッチな食い物を不味く作ることができるのか。不思議でなりませんが夏の魔物のような中毒的欲求は懲りることもなく、その後も数度、同じ店でバニラシェイクを購入し、不味さは不変で、静かな消費者こと僕は、文句を言うこともなくマクドナルドに行かなくなってしまいました。




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このエントリーは、

ルマガ 山本山本佳宏『二十一世紀の未読』

本日配信分の一部を抜粋したものです。

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