「これって私だけ?」

 

本当に自分だけじゃないのかと思っていることを口にせず、多くの人が同じ境遇、同じ意見であるはずだと思っていることについては声をあげる。

自分の特別さについて慎重に吟味する。異端ではなく中心で。他人が同様に持つ事柄のうち、「レベルが相対的に特別であるもの」を選んで、声をあげる。



 

真の特別さのほとんどは、人知れず固く抱えられ墓へと持ち込まれていきます。当人さえ知らないまま埋もれていく特別さも、稀ではありません。互いに特別さを隠し合い、自分に似せた人形を自分の前に置いて僕たちはコミュニケーションをとります。

他人のことが分からないのと同様に、自分のことも分からない。自分の何が特別で、他人の何が特別なのか、僕たちには知ることができない。

 

真の特別さは、比べるものがない。

真の特別さは、思っていても言えない。

 

 

 

恥ずかしい思いをしたり緊張したりすると、僕は顔面が縞模様になります。

例えて言うならば、スイカのような緑と黒のシマシマだそうです。

僕はその縞模様を、自身の目で見たことが一度もありません。

 

スイカが顔面に現れるのはほんの一瞬、まさにストレスを感じたその瞬間です。

生まれてから今まで、自分の身にそんなことが起こっているなどとは知らずにすごしてきました。

それまで何事もなく会話していた周囲の人たちが突然目を見開いて驚き、口をつぐんで後ずさりする。首をかしげてどうしたのかと問うてみても、まともにこちらを見ようともしない。金切り声をあげて逃げ出す子さえいました。僕は得体のしれない不安に錐揉みされるがまま、人から避けられ、嫌われ、いじめられました。

 

なぜ僕は、こんなにも人から嫌われるのだろうか。

悩めば悩んだ数だけ、その理由は見つかります。嫌われる原因が増えていきます。

僕はどんどん、嫌な人間になっていきました。

 

ある時、出会ったばかりの女の子が、意地の悪そうな顔をして僕に言いました。

「お前、何で顔にシマシマ出てんの? 気持ち悪いんだけど」

顔にシマシマ、の意味が分からずに黙って彼女の顔を見ていると、「うわ消えた。あっ、また出た。きも」と眉をひそめられ僕は、鏡見てこいと尻を蹴られました。

 

トイレの鏡に映るのは、のっぺりした米粒のような、いつもどおりの自分の顔で、あの子もきっと、仲間内の罰ゲームで僕をからかいにきたのだろう、面と向かって女性と話したのはいつぶりだろうと思いつつ、顔を洗いました。

 

僕が嫌われる理由を、僕は知ることができません。

僕が知ることができるのは、僕が嫌われているという事実だけです。

その事実が僕の内に、数えきれないほどの嫌われる理由を作り、僕は真の理由を知る必要もなくなってしまいました。




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このエントリーは、

ルマガ 山本山本佳宏『二十一世紀の未読』

本日配信分の一部を抜粋したものです。

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