あのー、別にまあ、このタイミングを待ってたから配信が遅れたということでは全くないんですけども。

 

イチローMLB3000安打おめでとうございます。本当におめでとうございます。

 

いつも言っているように、あなたが何をしても何をしなくても、何を成し遂げても何を成し遂げなくても、何を考えても何を考えなくても、性格や普段の行いがどんなものであろうとも、この記録や自分自身のことをどう考えていようとも、それらはあなたの素晴らしさとは全く関係のないことです。



 

自分の欲求を満たすことを際限なく他人に望み、要求する。それを愛と詐称する人たちが、どれほどイチローを取り巻いたことでしょう。

愛を数えきれないほどの条件で囲み、「自分の要求を満たした場合に限って、愛情を返してやってもよい」と嘯く人たちが、この世にどれほどいることでしょう。

 

あなたは僕のような、一切社会の役に立たない、ねじれた底辺のゴミクズのような存在に対しても、何一つわけ隔てることなく平等に、まばゆいばかりの姿を惜しげもなく見せてくれた。なぜこんな僕にもそんなかっこいい所を見せてくれるのか。それは光だと、神の所業だと、思いました。

自分のことを、好きだから、嫌いだから。自分のことを値踏みするような目で見るから、見ないから。自分の稼ぎや地位に貢献するから、しないから。多くの場合、僕たちはそれらによって、他者に対する自らの態度や言動を決めていきます。それが人間の性であり愚かしさであるとも思います。

何もプレゼントすることなどできない僕に、何物にも代えがたい、ただ純粋な格好よさ、巧さ、速さ、華麗さをくれたイチローに、僕ができることは、彼が何をしようと、何をしなかろうと、死ぬまで変わらず愛する、ということしかありません。

 

イチローが無条件に見せてくれたプレーへの答えを、無条件の愛でしか返すことのできない僕を、少なくとも僕自身は恥じています。イチローがもっと楽しく、もっと幸福に過ごすための一助になることができれば、より良かった。せめて直接本人に、彼の素晴らしさを伝えることのできる人間になれれば良かった。しかし残念ながら、そのような人間になることはできませんでした。

 

イチローのプレーが僕の人生に希望を与えてくれたとか、支えになったとか言うつもりは、全くありません。自らの人生に投影するつもりは、毛頭ないのです。

僭越ながら同年代の人間として、彼がどれだけ多くのことを犠牲にしてきたか、どれだけの努力を積み重ねてきたか、どれだけイチローという存在を懸命に演じ守り続けてきたか、どれだけ疲れたか。その一端をかすかに感じ取ることくらいはできているはずです。

しかし真の感動とは、自己の人生に投影する必要も、シンパシーによって生まれる必要も一切ないものだと、僕は思っています。

 

ただ純粋に、自分が素晴らしいと思ったものを、素晴らしいと称賛する。

その行為すら、欲望や打算やストレス、嫉妬や怨嗟に歪められ真っ当にできなくなってしまった今日において、僕はそれができた幸運に対して喜びを覚えます。そしてイチローという野球選手の存在なしでそれを感じることはできませんでした。

 

 

スーパースターである、とはこういうことなのでしょうか。だとすれば今日、新たなスーパースターはもう生まれないのかもしれない。事実もう、ずいぶん前から生まれていません。

 

僕にとって、そのスーパースターはイチローという野球選手であり、マラドーナというサッカー選手であり、セナというF1ドライバーでした。世代も生まれ育ちも違うみなさんにとっては、また別の人なのでしょう。

お金を稼ぎたい、良い地位を得たい、チヤホヤされたい。誰がいくら自分に稼がせ、誰がどれだけ自分を気持ち良くさせるか。

自分を好きで自分をチヤホヤしてくれる人だけに、応分の愛情を返し、それ以外の人と区別する。今や名前と顔を晒して活動する全ての人がそれを目指し、各界の著名人であってさえ、そこから逃れることができない。

自分を好きであろうと嫌いであろうと、興味があろうとなかろうと関係なく、「全ての人」に、自らが見せることのできる芸術を平等に見せる。それがスターであり、僕にとってはイチローです。

 

 

彼が明日現役を引退しようとボロボロになるまでしがみつこうと、MLBで現役を終えようと日本で最後の数年をプレーしようと、引退後何をしようとしなかろうと、イチローへの愛が変わることは一切ありません。

もう一生かかっても感謝しきれないほどのものを、とうの昔にもらっているのです。

 

MLB3000安打、本当におめでとうございました。




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このエントリーは、

ルマガ 山本山本佳宏『二十一世紀の未読』

本日配信分の一部を抜粋したものです。

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