「夢が破れた」と言うとき、その破れ方には二種類あります。二種類しかありません。
一つは、「金銭的理由」です。
僕たちが、○○になりたいと夢を語るとき、その夢を正確に表現すると、「○○になって金を稼ぎたい」「○○になって地位や名誉を得たい」となります。
その職業になること、それを実現すること、が夢である人は意外に少数です。ほとんどの夢には、ちょっとは稼ぎたい、ちょっとは認められてチヤホヤされたい、ちょっとは売れたい、がセットでくっついてきて、その部分が実現できず、「夢破れた」と言います。
「私はそんな汚い考えを夢にしたりしません!」という人はそれで結構だと思います。金を稼ぐことを前提としない場合、ほとんどの夢は実現しますので、安心して進めばいいと思う。
一方で、そうではない人たちは、「金を稼いでチヤホヤされることが夢である」自分と、きちんと向き合うことが、最初にやらなければならないことです。下手したら…下手をしなくても、○○になりたいという部分が、実は今の自分にはどうでもいいことなんじゃないかと気づく可能性もあるわけですからね。
二つ目は、「対人関係上の理由」です。ギターとベースで女ボーカル取り合って殴り合いの末解散的な。ちょっと違いますか。
僕のようなコミュ障ではなくとも、対人関係の問題は、必ず起きます。この人とは合わない、この人とは一緒に仕事したくない、いるだけでムカついてしょうがない。だからこの場所にいることはできない、私は我慢できないから去ります、という流れで、「夢が破れる」。その反対で、自分はこの人たちに迷惑をかけているんじゃないか、自分は邪魔者なんじゃないか、もうウジウジ考えるのは疲れた、辞めます、という流れもありますけど、これらはコインの裏表であって、似たようなものです。対人関係は、人と人の間にあるもので、どっちか一方にだけ理由があることはありません。人間に合う合わないはつきもので、ということは、あなたに合う人は必ず存在する、めちゃくちゃ働きやすい場所は必ず存在する、ということでもあります。
人と合わないことを我慢する必要はありません。しんどいだけで得るものが何もないですし、こんなことで夢は破れたりしません。どんどん場所を変えればいいと思います。
この二つ以外に、「自分はやる気満々なのに、残念ながら夢が破れてしまった」という事態に陥ることは、基本的にはありません。
芸能とか音楽とかテレビとか映画とか広告とかクリエイティブとか、きらびやかな業界に夢を抱いた若者が山盛りやってきます。憧れのあの場所で私も働きたい!っていうことですよね。
好きなことを仕事にする。
好きなことを仕事にする、と言ってこの業界に飛び込んでくる人がたくさんいる、ということは、好きなだけで全く向いていない人と、好きなだけで全く才能がない人が毎年毎年たくさんやってくる、ということです。当然、毎年毎年たくさんいなくなります。
才能がないからダメなのか、というと、多分お分かりだとおもいますが一概にそうではありません。どの世界にも、才能のある人からない人まで均等に、本当に均等に存在します。クリエイティブ系だから、とかアート系だから、とか、そういうのは一切関係ありません。老いも若きも関係ありません。ですから、才能がないのと、向いてない、というのは、全くの別物です。
夢に見た華の世界に私も混ぜてほしい、そこで夢の続きを見たい、私もキラキラした側の人になりたい。そう願う人は多いです。しかし、いざその世界に入ってみると、自分の頭の中に築き上げた夢の国とのギャップにショックを受けたり落胆したりすることも、同様に多い。その世界において成功する(自分が客として見ていたステージに出演者として登壇する)までに、途方もないクソのような時間が待っていることがあることを受け入れられない。そういう例はたくさんあります。
僕は憧れや夢を持たずに仕事を始めましたが、少し才能があったのでしばらく続けてしまいました。僕は、全く向いていないと思って辞めた側の人間です。才能があったことと、頭が鈍いことと、優柔不断さが災いした結果、向いていないことに気づくのが大変遅れたという悪例です。
一つの夢をいつまでも追い続けることは世の中では美徳とされていますが、それは誤りです。一つの夢を追いかけるのがダメだと言っているわけでは全くなく、人によって夢の在り方は様々であって、どれが良くてどれがダメなんてことはない、と言っています。
泡のように浮かんでは消え、現れては忘れ、いくつも同時に生まれて追いかけては次々と弾け、情熱を捧げては飽きて捨てる。夢とはそういうものでもあります。そうであったとして、それは全く非難されることでも悪いことでもありません。
個人的にはむしろ、過去の自分が考えた夢に、現在の、そして未来の自分がいつまでもしがみつき続けることのほうに危険を感じます。過去の自分は、今の自分に対して何の責任も取りません。決めたことは守らなきゃいけない、というのは単なる思い込みです。今の自分のことは今の自分が決めればよいのです。これは違うと思えば、夢は捨ててしまって全く構わないのです。後生大事に抱え込むようなものではありませんし、自分には夢がないといって、焦る必要もありません。
夢の持ち方に良いも悪いもないのと同様、夢の種類にも貴賤はありません。
金持ちになりたい、モテたい、ヤリたい、チヤホヤされたい、見返してやりたい。これらはれっきとした夢です。それどころか、どちらかというと立派な夢でさえあると思います。
「なりたい職業より、やりたいこと」というのは、常に一定の真実を含んでいます。
僕たちは銀行員であろうとライン工であろうと市議会議員であろうとコンビニのバイトであろうと主婦であろうと公務員だろうと、職業に関わらず、「やりたいこと」に関わることができます。音楽に関わりたいなら、ミュージシャンになるか、芸能事務所に入るか、レコード会社に入るか、ライブハウスで働くか、PV作る会社に入るか、PAの会社に入るか、FMラジオでディレクターになるか。いっぱいあって迷うな迷うなーと言いながら、それさえもほんのごく一部の、ごく狭い視野の中で見たものであることには、なかなか気づくことができません。
過去の自分が抱いた夢は、往々にして、「場所」を求めています。やりたいことをするのが夢なのではなくて、ずっと好きだった憧れの場所に、自分も行きたい、行って自分もその一員になりたいというのが、夢。そこに入るためには、必ずそこの住人の審査と許可が必要になります。場合によっては拒絶されることもあります。そして、その場所に所属することができないと、夢が破れた、となる。次にどうしたらいいのか分からないと、誰も追いつめたりしていないのに、自分で自分を追いつめる。そりゃあしんどいですよね。
仕事をするにつれて知るようになる。例えば仕事を紹介してくれる人が必要だし、金を貸してくれる人が必要だし、スケジュールを管理してケツを叩いてくれる人が必要だし、荷物を運んでくれる人が必要だし、道具を作ってくれる人が必要です。これらの人たちがいないと、自分の仕事は全く立ち行かない。それに気づくのはごく自然です。しかし、その反対側のことにまではなかなか思いが至りません。自分が夢であると思っていた仕事に、自分が夢であると辿りついた場所以外の人がたくさん関わっていること、つまり、仕事が何であっても、やりたいことに関わり実現することはできるということに。
今、自分がいる場所、今自分が置かれた立場から、自分のやりたいことを実現するためには、どんな方法があるのだろうかと考えるのが夢の追いかけ方です。その場所に行けば何とかなる、その場所が自分に力を与えてくれる、という考えは、あっという間に自分を窒息させます。
夢とは何なんでしょうか。やりたいこととは何なんでしょうか。
夢とは、自分が幸せになることだと、僕は思います。
やりたいこととは、自分が幸せになるためにすることだと、僕は思います。
金持ちになりたい、と言う人は、金持ちになったら自分が幸せになると思うから、金持ちになりたい。
芸能人になりたい、と言う人は、芸能人になったら自分が幸せになると思うから、芸能人になりたい。
他人を幸せにしたい、と言う人は、他人が幸せになったら自分が幸せになると思うから、他人を幸せにしたい。
僕たちが普段、やりたいことだと思っていることはどれも、手段であり道具に過ぎない。自分が幸せになるための、単なる手段です。
自分が幸せになる、というのは決してわがままな、傍若無人な欲求ではありません。
他人にも幸せになってもらわないと、自分が幸せになることはできないだけです。
誰とも関わらずに自分だけが単独で幸せになることはできないだけです。
それに気づかない時、少し気づいた時、はっきり気づいた時、その時々で、やりたいことは変わっていきます。生まれながらにして悟っている人はいませんし、死ぬまで何も気づかない人もたくさんいます。他人を不幸にしても幸せを感じられる人もいます。
幸せとは何か。その答えは人それぞれですし、他人に自分の考える幸せを押し付けることはできません。
自分の幸せについて考える時、ネットで拾ったような名言と呼ばれるものや、世の中で素敵だとされている枠を当てはめても、どこか納得がいかない自分にだけは気づくはずです。自分が幸せになるかどうかの瀬戸際に、自分に嘘をつくことはできないでしょう。あなたを幸せにするのは、あなたではないのかもしれない。しかしあなたが幸せかどうかを判断できるのはあなたしかいません。
もっと自分の幸せに対して真剣に。そして全てのエピソードは友達との笑い話に。その連続が苦ではないものが、あなたのやりたいことです。
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メルマガ 山本山本佳宏『二十一世紀の未読』
本日配信分の一部を抜粋したものです。
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