平日の朝早くから、細い歩道を占領して行列がこちらに向かってきた。

大人が行列で歩くことは稀だ。

 

僕たちは誰かに先導してもらわなくとも、友達とじゃれ合って車道にはみ出しはね殺されたりはしないし、目的地を誰かに任せなければならないこともない。大人の行列は、それだけで奇異に見える。



 

行列の人たちは男女ともみな、まさにリクルートスーツといった感じの、飾りも何もない黒スーツを着ていた。11月だ。内定式でもなければ入社にも中途半端なこの時期に、この行列は先導されてどこに行くのだろう。

リクルートスーツから発されるはずの初々しさは微塵もなかった。誰もがヨレっと、誰もがクタっとスーツを着こなしている。パリっとしたフレッシュさはない。ただ、彼らの顔には、疲れの色と共に、どこか晴れがましい笑顔が浮かんでいて、この50人ほどの行列は、何か良い事の行列なのだと感じた。

 

近づくにつれて、少し異変は感じていた。白人には決して感じることのできない異変。彼らは日本人ではない。

髪型、化粧、服の着方。黄色人種でなければ決して分からない微々たる違いが、少なくとも、日本で育った若者ではないと感じさせる。

 

先頭の年配者二人が会話する。おそらくは中国語だ。中国人だけではない、東南アジア系の人も交じっているようだ。彼らはこんな朝早くから、どこに連れられて行くのだろうか。

 

列の後ろの方を歩いていた、フィリピン系の若い女性は、母親のような年齢の人と一緒だった。はにかんだような笑顔を浮かべる娘とは対照的に、母は人目もはばからず娘に抱き着き、良く分からない言葉を口にしたあと、頬にキスをした。

 

行列を少しかき分け、僕は娘がキスを恥ずかしそうに嫌がる横を通り過ぎた。娘からは、ゆずのバブの香りがほのかに漂っていて、僕はこれからも日本で頑張ってほしいなと思った。





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このエントリーは、

ルマガ 山本山本佳宏『二十一世紀の未読』

本日配信分の一部を抜粋したものです。

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