99本のメルマガを書いてしまいました。100本も2周年も、週1で書いている限り似たような時期の区切りになってしまうので、どちらがどうということはないんですけれども、去年の8月、メルマガ一周年と第二章の突入を迎えた時点で、メルマガは2013年の7月でやめようと思っていたことは事実です。

僕は批評家でもないし、ニュースの紹介屋でもないし、情報商材屋でもないし、ビジネス書ライターでもないし、あるあるネタ職人でもないし、ツイッターのふぁぼ乞食でもないし、ましてや人生訓を垂れるような偉い人間でもありません。

職業柄、どのように書けば数集められるか、どのネタを扱えば人気が出るかについて、少しは理解しているつもりですし、理解しているからこそなのかもしれませんが、少なくとも、買ってくださいよろしくお願いします、とか、読んでくださいお願いします、とかのようには振る舞えません。これは別に偉そうにしているわけではなくて、むしろ欠陥の露呈です。

 



 

どこかでお話をしたかもしれませんが、僕が小学校6年生の時に書いた夏休みの読書感想文は『植村直己物語』という本のものでした。植村直己ってご存知でしょうか、世界初の五大陸最高峰登頂者として国民栄誉賞も受賞した冒険家です。彼は五大陸最高峰、最後となる北米大陸のマッキンリーで、世界初となる冬期単独登頂を成功させましたが、下山中遭難していまだに遺体は発見されておりません。それが1984年の出来事。そういった経緯から、ちょうど僕が小6であった1986年ごろに、彼を称える子供向けの伝記が出版されるのも自然な流れと言えます。旬だったわけですね。推薦図書にも指定されておりました。

当時の担任は、ことあるごとに僕を色眼鏡で見る典型的な日教組のオバハンで、大嫌いでした。とは言えまあ僕も悪くてですね、宿題をやっていかないこと山の如しだったんですけれども、何とか最後ぐらいは鼻を明かしてやろうと思って選んだ手段が、「どうせ無条件にダメ出ししてくるであろう感想文で賞をとって、バーカと言ってやろう」でした。何じゃそれ。感想文て。カワイイ。権威的なヤツをやり込めるために、さらに上位の虎の威を借りるとは何たる低級な手段だ恥を知れ。社会的に潰すぞ。

 

12歳を社会的に破滅させたところで話を続けますがそういった理由により僕は生まれて初めて本気で読書感想文を書きました。何でなのかなあ、当時、自分が頭良いという自覚はあまりなく、まして文章を書くのが得意だという自覚もあまりなかったはずです。思いつきかしら。本の選び方まで入念に。指定図書の中で一番分厚くて難しく、他に選ぶ人が少なそうであり、なおかつ冒険家の飽くなきチャレンジ精神と、その結果としての遭難死という、非常に感想を述べやすい題材である。よしこれだと。何てかわいげのない子供なのでしょうか。やっぱり社会的に殺しておいてよかった。

 

 

「ああ、これだったんだ。僕が見たかった景色は」

植村直己は、遠くに白くそびえ立つマッキンリーの姿を見て、そうつぶやきました。

 

 

みたいな書き出しだったでしょうか。作中の最も印象的なセリフ始まり。姑息ですよねやり方が。やり方よりも、「こういう感じで始めたら大人は印象的だなとか思うんだろ?」みたいなことを思って書いてる小学生の気持ち悪さたるや。中身はですね、別にどっちでもいいんですよ。語尾を「○○だと思いました」というのだけ避ければ、中身はありがちな感想でいいんです、分かんない分かんない中身なんか。書き出しと、教訓的なまとめ。中身はベタな感想で十分。

 

で、市内の金賞みたいなのをもらいました。県の金賞とか欲しかったのにな。どうだったんだろう。覚えてませんが。とは言え結局これはどういうことなのかというと、狙って賞獲った、ということです。そりゃそうですよね、どこの小学生が自ら進んで教条的な本を読んだ感想を長々と原稿用紙に書き大人に提出したいと望むでしょうか。嫌々適当に書いているボリシェヴィキか、自ら進んで大人のために書いて褒められたいキモいメンシェヴィキか、どっちかしかいないわけですから、僕のように薄暗い目的意識をまっすぐに持って書いたやつが勝利するのは自明ですよね。さらにはこれで、「あれ、俺文章書くの、わりと得意なのかな」とか勘違いしてしまったはずですから始末に負えません。

 

 

人の顔色ばかりを長らく窺って参りますと、このようなことが誰にも可能になるのでございます。そんなわけないじゃんとおっしゃる方は、顔色の窺い具合が足りないとお考えください。あなた、他人じゃなくて自分の顔色見てたんでしょ、ということで。

 

ともあれ、大人が賞をあげたくなるような子供の文章はどんな具合か、というものを追求した結果はこのようなものでありました。そんなに幼き頃から、人からどう思われているのかばかり考えていたのですね、哀れな少年ですこと。

哀れな少年は哀れなおっさんとなり、そろそろ、もうそういうのもいいんじゃねーかなと思い始めた、ということなのかもしれません。もうだいたい分かった、これ以上、残り少ない人生を人の顔色窺って生きて、僕は笑って死ねるのでしょうか。

 

 

そんなこと言ったって生活するためには何かを書かなければならないのですが、メルマガによる収入は、当然そんな大したことないんですよ。もう少しまともにご購読いただくためには、当然、僕が別の場所で有名になる、以外の方法はありません。世の中、肩書きが全てですから。

どれだけネットや各種メディアを遮断しようとしても、東京は本当にノイズが多い街でですね、そのノイズの発信源が遠ければ遠いほど、うるさい。遠い人は声でかいですから。うるさい。たびたび筆が止まります。

こうなるとストレスも加速しまして、そうなるとどうなるかと言いますと、ついつい、手癖でできる、楽なほう楽なほうへと逃げ出そうとしますね。僕の場合はどうなのかというと、先ほども書きましたように、多くの人が気に入ってくれそうな文章、人気が出そうな、人がたくさん集まってきそうな文章ですね。ふと気づけば、そういう思考回路で書いてしまいます。これは楽。大変楽です。楽だが、全く楽しくない。一方で、本当に心から書きたいことを書くのはですね、苦行ですよ。真の意味での。苦行だが、楽しい。

 

これは万事に言えることなのかもしれませんが、みなさんもご存じの通り、こういう時に人間がどちらを選ぶかというと、楽なほうなんですよね。めんどくさい、という思いを越えられるものは、世の中にはそうそうありません。めんどくさいの問答無用さたるや。例えば、投票行くの、めんどくさい。これを乗り越えて、じゃあ行くか、となるためのお題目は、ほぼ皆無と言っていいと思います。心に訴えかけても意味ない。

投票行かなきゃ殺す。投票行ったら1億やる。どっちかでしょうね。「投票行くのがカッコイイ!というイメージを若者に定着させたい!(キリッ」 分かりますけど、無理です。お題目やイメージでは、めんどくさいの壁は越えない。それぐらい、めんどくさいはデカい。ロシアぐらいデカい。攻め込めるのは米軍だけです。

 

 

これはめんどくさがっている人への悪口ではありません。しかし、あの頃の、12歳の頃の僕が、「めんどくさい」を乗り越えて読書感想文を書いたのも事実ですよね。困難に立ち向かうのだ!とか、やる時は歯を食いしばってやらなきゃいけないんだ!とかいう、もはや機能不全に陥っているお題目ではなくて、あの教師むかつくからヘコませてやりたいという、あまりにも低級な衝動によって、めんどくさがり屋の僕は「めんどくさい」を乗り越えたわけです。すごいですよね。

「めんどくさい」が、心の問題として克服されることは、まずありません。今この瞬間のめんどくささを乗り越える質量のメリットが必ず必要です。「あとあと困るよー」は、メリットにはならない。今この瞬間のメリット。それを互いに設定し合わないと、「めんどくさい」で総潰れした社会主義国家みたいになっていきます。

 

 

『ボーリング』という高橋優くんの曲がありますよね。面倒臭ぇ!の歌。

あそこにも、僕らの身体に、水分以上に含まれているであろう、「めんどくさい」の成分が凝縮されております。

飾りのない本音に励まされた!とか、明日も頑張ろうと逆説的に思えた!とかいうご感想もあろうかと思いますが、彼の歌うめんどくさいというのは、「生きるのがめんどくさい」のではなくてですね、「生きるためにめんどくさがっている」ということであろうと思っています。現在を生きるために必要な、極めて今日的な思考です。

 

閑話休題。

東京のノイズの多さに、集中して物を書くことをめんどくさく感じてしまう中、毎週の締切にどうにかこうにか救われて、メルマガを書き続ける一年間でした。何の引っかかりもないような読み物をお読み頂いている皆様には感謝の言葉もございません。今日のところは、7月で辞めるのはやめとこう、と思っています。

第三章は何をしますかねー。別に第二章のままでもええやんけってこともあろうかと思いますが、第二章のできるだけ面白いこと書くみたいなのも、あっという間に忘れ去られたお題でしたしねえ。面白いことは色々あるんですけど、その都度、「メルマガじゃないほうがええんちゃう?」という、小賢しい思考が働きまして、キープ。みたいな。書けよ。

第三章は何かしら。何かしら。何だかどんどん、誰にも望まれていないものしか書かなくなってきていて恐ろしいですけど。そういう趣旨でしか書けない人間であるということで何卒ご容赦くださいませ。


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このエントリーは、

ルマガ 山本山本佳宏『二十一世紀の未読』

本日配信分の一部を抜粋したものです。

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