Twitterで少しツイートしましたところ、「まさか() さすがにネタですよね()」という神様の宝物のような返信をいただきましたので、ここから書くことは全てネタであり嘘800であることを先に申し上げておきます。あの返信がなければ僕は道を過つところでございました。つまらぬリプライは全て神様が僕を戒めるために寄こした警句なのでした。甘んじて跪き、舌を突き出して拝領することに致します。

 

 

都会で、特に東京で、マンションやアパートでの一人暮らしをするとどうしても起こってしまうのは、隣人の問題です。

もちろん戸建の家に住んでいても隣近所の引っ越しババアなどに絡まれたり庭にウンコばら撒かれたりするリスクは孕んでいるんですが、それでもやっぱり、壁一枚隔てた向こう側に赤の他人が生活しているという事実にはストレスが伴いますよね。特に隣の家まで砂丘越えて5時間ぐらいかかる鳥取とかのクソ田舎から上京してきた大学生や社会人にとって、隣人と自分の間にサニーレタス程度の遮蔽物しかないことは相当のカルチャーショックですよね。ネットやテレビでどれだけ知識として見聞していても、部屋の壁の裏側がカリカリカリと音を立てた瞬間のビクゥッッッッッ!!!!!感は実際に遭遇してみないと得られない感覚です。

 



 

僕も当然そんな中のひとりでありましたが、どうもなかなか、隣人運に恵まれない気がしていました。とはいえ他人の隣人運と比べるべくもございませんので、そういう気がしている、の域を出ませんが。

 

 

1軒目:板橋区。家賃5万。6畳あるかないかのワンルーム。鉄筋コンクリート。1階。

 

1軒目の話は各所で相当していますので、それどころか他の話もどこかで一度はしているはずですので、既視感がおありの方は読み飛ばして頂いて結構なのでございます。

 

23区内」ということと鉄筋コンクリートのマンションであることだけは譲りませんでした。

僕は『東京』に来たのであって、東京都町田市に来たわけでも埼玉県蕨市に来たわけでも戸田市に来たわけでも千葉県浦安市に来たわけでもない、という決意表明と、阪神大震災をくらって、木造のアパートは漏れなく潰れるという事実を目の当たりにしていたことからの条件でした。鉄筋も潰れますけど、ぺしゃんこにはなりづらいので即死は免れます。

とは言え23区内の鉄筋マンションとなると5万で探すのはなかなか難しく、僕の部屋はまるで半地下のようにジメジメとした1階の、異常に縦細の部屋でした。垂直に寝転ぶと頭と足が両側の壁についてしまうほどの狭い部屋で、それでも僕は無職の男の部屋なんてこんなもんだろと思い生活を始めましたが隣。もう住み始めて数日で気づきました。

薄い壁の向こうから四六時中ずーっと奇声が聞こえてきます。時には高くなり低くなり、まるでお経にも似た声で絶え間なく。何をしている人なんだろうか。

それから数週間後、仕事に出かけようとして部屋を出ましたところ、通路の向こうから一人の男がスキップしながらこちらにやってきました、彼はいかにもうだつの上がらない、今風の言い方をすればヒキニートといった風体をしており、コンビニ袋をぶら下げて、楽しそうに、奇声を発しています。

 

こいつや。

 

目が合いました。その瞬間彼は奇声を発するのをやめ、スキップもやめました。

黙ってすれ違い、彼は予想通り、僕の隣の部屋の扉を開けました。

その途端、ドアの向こうからこぼれ出す奇声。歌うような奇声。

 

お前は、本来この奇声が俺に迷惑をかけている、本来は怒られてしかるべき行為であると自覚しているのだな。だから俺を見てやめたのだな。俺はずっと、隣が偶然、気が触れているヤツになってしまった、仕方ないが我慢しようと思っていたが、お前は100%のキチガイではなくて、二十四時間、迷惑な奇声を発しているという自覚があるのだな。そして止めようと思えば止められる、自発的な制御が可能であるにも関わらず、やめないのだな。よろしい。ならば戦争だ。

 

もう壁ドン壁ドン壁ドンドンの毎日ですよ。いやそんなには壁ドンしてないです、だって全くやめないもん。

僕は僕で不規則な生活ですから、朝起きていることもあれば昼間に家にいることもあるし深夜まで起きていることもあります。そして時間関係なく奇声は続く。良くぞこの部屋が5万円で借りれたなと思ってたらこういう理由か。

 

何で彼は一人暮らしできているんですか。何らかの社会人生活を送ることができているんでしょうか、だとしたらなおさら許せません。こっちもノイローゼ一歩手前です。よろしい。ならば戦争だ。

 

4年住みましたね。住むんかい。

だって金ないから仕方ないじゃないですか。よくぞガマンしましたよね。

引っ越す時に隣のドアの鍵穴にアロンアルファ詰め込んだろかと思いましたが、それは思いとどまりまして代わりにウンコ詰めときました。

まあ、それもこれもウソですけどね。

 

 

2軒目:中野区。30平米ぐらいのワンルーム。鉄筋コンクリート。2階。

 

少し稼げるようになって2階。日当たりも良好でようやく僕は、「暮らしている」感を得られるところに来ることができました、前の部屋からは「生きている」感を得るのがせいぜいでしたもので。

仕事をしておりまして早朝。隣の部屋からすごい音量で、ジュリアナみたいなクソみたいなハウスが鳴り始めました。しかし僕は不快感を覚えたわけではなかったのです、むしろ好意的に受け止めました。「そうかそうか、今回の隣の人は、わりと音楽をガンガン聞く人なのだな、結構。じゃあ僕も、音楽を聴いたっていいってことだよね、了解了解」と。

壁の向こうから響き渡るハウスに合わせて、僕も好きな音楽をCDプレイヤーに入れました。全然大音量じゃないです、むしろ向こうのクソみたいなハウスが聞こえなくなればそれでいいかなぐらいの感じで。

 

CDを再生した途端、クソみたいなハウスの音がピタっと止まりました。あれ。やべ。何かビックリさせてしまったかしら。と思う間もなく壁の向こうからはドカドカと玄関に向かう足音が聴こえ、え?何?何?何?ドアを開ける音、そして、ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンドンドンドンドンドンドンドンドンドンキチガイ怖い―――――――!!!!!!!!!

狂ったように打ち鳴らされる我が家のチャイム。何なんでしょう。まだ7時ですよ。特ダネも始まってないような時間にクソみたいなハウス大音量で聴いてたのそっちじゃないですか。またキチガイが隣に住んでるんですか。

 

部屋の隅っこで震えているとようやく隣人は部屋に帰っていき、それ以降も大音量のクソみたいなハウスは折に触れ早朝に鳴り響きました。隣人が僕の部屋を再び襲うことはありませんでしたが、ある日、部屋に入る姿を偶然目撃することはできまして、汚い茶髪パーマで汚く日焼けしたおばはんでした。良かった、相手しなくて。面前でキーキー鳴きわめかれたときのことを想像しただけで鳥肌が立ちます。

さて、1軒目の悪夢のこともあり、隣人にキチガイが住んでいるとなれば、長く住む意味がありません。関わらないためにはこっちがさっさと引っ越すのが最良の策です。半年ほどで引っ越しました。

 

このころようやく気付いたのは、身分と階層のことでした。

安い部屋に住んいでるから、頭のおかしいヤツが隣人になるのだと。ファミレスやフードコートにアホが集るのは避けられないことです、そういう人たちに会いたくないなら、ちゃんとした高い店でメシを食えばいいのです。

 

 

3軒目:新宿区。高層マンション。60平米ぐらいの1DK

 

ハッキリ言って勝ち組のマンションです。世の中の大半の人たちが一生住めない、ハエや蚊すら到達できないぐらいの高層マンションの高層階に引っ越しました、残念ながらこの時はわりと稼いでおりましたので。

これで。これでようやく。隣に奇声上げるヤツとかクソみたいなハウス聞くババアとかとは会わずに済む。

なぜなら、ああいうワケの分からんヤツらは、ここの家賃を払うことはできないからだ。

 

姿を見たことはありませんでしたし、壁もたいそう分厚いですので、隣人がどんな人なのかは想像でしかありませんでしたが、ドアの前に置かれている傘などから、女性の一人暮らしっぽいことは想像できました。そんなことはともかく、隣人に迷惑をかけないというだけで、僕はもう大満足でした。

 

ある日、家を出て仕事に行こうとして、隣の部屋のドアに目が留まりました。

直径1メートルはあろうかと思われる、超豪華なクリスマスリースが掛かっています。1万円ぐらいしそうな。

そりゃ確かに、間もなくクリスマスです、リースぐらい飾ったって別にいいんですけど…どこか引っかかります。

女の一人暮らしが…あんなガチンコで、家の外に飾り付けしたりするかなあ……

部屋の中を飾るのは全然あると思うけど…外やで……

 

この時点で何かに気づくべきだったのです。

 

翌夏。暑い夏でした。

高層階でもあるため、部屋は相当気密性が高く、逆に言えば、たまには頑張って換気したり通気したりしないと、空気が澱みます。暑い。

時々、玄関を少し開けたままにしたりしていました。セキュリティ的にもまあ大丈夫かな的な感じで。

買い物に行こうとして部屋を出ると、隣もウチと同じように、玄関を少し開けたままにしていました。確かに。暑いよね。

そう思いながら部屋の前を通り過ぎようとすると、部屋の中から声が聞こえました。わりと年配の男の声です。あれ。彼氏かな。普段気配もないのに。男は玄関の近くで電話をしているようです。

 

「いつまでナメた口聞いてんだてめー、殺すぞおら!!!!

「今から若いもんそっち飛ばすからな、待っとけよおい!!!!!

 

僕の顔からは微笑が消え、ついでに足音も消え、僕は泥棒のようにコソコソと自分の部屋に戻りました。

おい。おいおいおい。

ヤクザやんけ。

キャリアウーマン独り暮らしかと思ったらヤクザが愛人住ませとるだけやんけ。

 

この日から数日間、僕は、愛人宅にいるヤクザを襲撃に来た鉄砲玉が、部屋をひとつ間違って隣の部屋を開け、僕を蜂の巣にする妄想でガタガタ震えておりました。

 

以上、高い部屋に住んだら住んだで、困ることはありますね、という作り話でした。



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このエントリーは、

ルマガ 山本山本佳宏『二十一世紀の未読』

本日配信分の一部を抜粋したものです。

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