ダジャレは踊る
手のひらから余裕でハミ出すほどデカくて植物を食って食って食いまくって増えて増えて増えまくる。そんな巨大カタツムリがアメリカで再び発見されたというニュースを見たのは少し前だったが、今はどうなっているんだろうか。その巨大カタツムリの名前は、アフリカマイマイ。気になるアフリカマイマイ。何の話だっけ。
そうでした。
アフリカマイマイと韻を踏んで、ダジャレだけは言うマイ。
...そう心に決めたのはいつだっけ。仕事を始めるずいぶん前のような気もしますよ。
とにかく幼い頃からダジャレが嫌いだった。なぜだろう。吉田戦車や山海塾。あるいはダウンタウン、そして山海塾。不条理な笑い、あるいは発想のジャンプ力で遊ぶ笑いの全盛時代を過ごした少年時代だったからか。山海塾は笑いじゃないよ。とにかくダジャレが嫌いだった。誰が何と言おうと、ダジャレなんか言いたくない。ダジャレに使う脳みそがあったらカライ大根とそうでない大根を見分ける方法をずっと考えていたい。そんなふうに思っていた時期が僕にもありました。
なのに世の中ダジャレダジャレダジャレ。ダジャレ追加公演決定。もうはびこってはびこってしょうがない。『社会はダジャレで回ってる』とか『ダジャレは社会の潤滑油』とか聞くとそんな社会なら俺はもう社会人失格の烙印を自分で自分のケツに押し付けてこのリングから去りたくもあったけど、もうここまでダジャレJAPANだと、本当は何かあるんじゃないのかと最近は疑い始めている。
2コ上のディレクターがいて2コ上ということは34なわけだけどもここ数年の間に急激にダジャレを頻発するようになった。それはもう爆発的な増え方。イギリスを愛しラバーソウルを履きハットを被り英単語を操り紳士的な仕草をふりまき続けるこの男もダジャレマイマイの渦の中。なぜだ。いい機会だ5W1Hを問いただしてやる。
Q1.なんすか。
A1.なにが?
Q2.なんでそんなダジャレばっかり言うんですか?
A2.しょうがねーよ止まんねーんだもん。
Q3.止まんないんすか?
A3.止まんない。思いついた瞬間、クチから出てる。
Q4.かかったらすぐ死ぬ疫病みたいですね。
A4.ん――――...酒飲むと特になー。
Q5.シラフでもずっと言ってるじゃないすか。
A5.もう今から飲み行かない?
Q6.ダメですよ、まだ仕事残ってるもん。
A6.久々にYOUも飲もうよ。浴びるように飲もうよ。あびるあびる、あびるYOU。
もう自分の文章の中にこの記念すべきダジャレがインサートされていることが屈辱的でDreくらい屈辱的かというと思いを寄せていた女子が僕の大嫌いな同じクラスのヤンキーと付き合い始めて付き合った理由がサックスを買ったからという右心室をワシづかみにされるようなウワサを聞いた時くらい屈辱的。サックスって。
しかしこのたびのインタビューでハッとしたこともいくつかあった。
某ハモリ5人組と仕事をしている知人が、その某ハモリ5人組の右から数えて何人目かの人に聞いたところによると、30代というのは、新しく覚えた言葉と、元々脳内に持っている言葉を関連付けるスピードが最も速い年代らしい。一体何なんでしょうかこの信憑性のない雑談は。でももしそうだとしたら、前述のディレクターのダジャレ頻度の増大もうなずける。
『聴いた言葉と知っている言葉を関連付ける』。それはすなわち、『ダジャレ』ではないか。その関連付けのスピードの速さゆえ、意思に反して口からこぼれだす。これがダジャレを言い始めるオッサンの初期症状なのではないだろうか。
オヤジギャグは30代から。愛してるって最近言わなくなった人をこんなに頼りにしていいかしら。
ダジャレの低年齢化
「来季、お局が巨人の屋台骨に」
...僕には無理かもしれない、ダジャレ。
『ダジャレ』イコール『オヤジギャグ』。そう思っていた時期が、僕にもありました。
3年くらい前にテレビ朝日系でスタートしたガキ向けアニメ『かいけつゾロリ』が一時期ブームになった。このアニメがまたダジャレ満載で。
『コンドルがよろこんどる』
...僕、実家帰るかもしれない。
元は児童書だがコミック誌にも連載されててそこには小学生読者から毎月山のように採用されたいダジャレが投稿されるらしい。
『あなたお坊さんですか』『僧です』
『アイロンはどこ』『アイロンノー』
『モーツァルトと野球をしたら、もう2アウト』
...尊皇攘-----------夷!!!!!!
すいません、なんか景気いい言葉を叫びたくなったもんで。
いいよ。ブームならいいよ。ガキの熱しやすく冷めやすきことアルミの如し。一過性のブームとしてこの思考回路をスッパリ捨て去ってくれるなら、まあ見過ごすことができる。
しかし。
何回か書いたことがあるが僕は仕事上中高生と話す機会が多く、ある18歳の高校生と出会ってその子がもう大変だった。
中学から暴走族に入って大暴れして高校を中退して両親が離婚して母親が再婚したのを機に更正して通信制の高校に入り直して音楽に目覚めて、ドラムの練習をしながら昼間はガソリンスタンドで働いている。多少情緒は不安定だが恥ずかしがり屋で素直だし、僕にも徐々に心を開いていってくれた。
そんな彼女から、ある日メールが届いていた。
『風呂に入ったナイチンゲール、股間をふと見てビックリ仰天。「ないチンが、あるぅ?!!」』
.........は。
無視しました。またメールきました。
『どうですか?面白いでしょ?』
こういうときに『面白いね!』と返信できないから会社勤めができていない僕なので。
(以下メールでのやりとり)
『悪い、全然笑えない』
『えー?こういうの嫌いですか?』
『趣味の問題じゃないと思うわー』
...10分後。
『これでニッコリしてくださいね♪ 冬の朝、ワサビが外に出て一言。「わっ、さびー!」』
YANDELL!!!!!!!!!!!!日本の10代は絶対病んでる!!!!!!ダジャレが骨髄バンク方面にまで染み込んでる!!!!誰よこの子にダジャレ教えたのは!!!!!!出てきなさいよ!!!!卑怯者!!!!!
ダジャレは確実に低年齢化している。低年齢化というか全方位的にアリになってきている。元々、『別にそんなにウケないけど初対面の取引相手とのイヤな沈黙をなくすには最適』みたいなOSSANNE、オッサンヌな感じが存在意義だったはずなのに...やはり社会はダジャレで回っているのか。だとすればダジャレの波の中でクリエイティブを探し求めたほうがより遠くへジャンプできるのか。
ダジャレCM
15秒という基本単位を持つと言われているテレビCM。15秒を短いと捉えるか長いと捉えるかは人それぞれだが、短いと捉えてる人が結構いてその短い尺の中で効果的に社名や商品名を記憶に残したいと思うらしくてとにかくCMはダジャレ!!!ダジャレのサンバカーニバルやー!!!(by彦摩呂のそっくりさん)
クリエイティブ代表として扱われる広告でさえダジャレばっかり。やっぱりダジャレってOKなものなんだろうか。
※ロッテ『のど飴』 長澤まさみ「のどすっきりん編」
高原でウクレレを弾きながらのんびりとしたCMソングを口ずさむ長澤まさみ。ひとしきり歌いきったあと、彼女はラストカットで、突然キリンのにぬいぐるみを持ち、「すっきりんでス?」の一言でシメる。
⇒え...これ成立してますか?ダジャレとして。2つの物事や言葉を手際よくくっつけたり細工したりするのがダジャレだと思ってたのに、『すっきり』という言葉と『すっきりん』というダジャレ完成形が先にあって、それを無理くり成立させるためだけのために登場した動物がキリン。ダジャレってこういう順番で作るんでしたっけ?これだったら無限に生まれますよダジャレ。
・『すっきりギリス』:つまむとギギギギギギギと鳴くお茶目なマスコット♪
・『すっきりでア?ルパカ』:ペルー生まれのラクダもどきマスコット。暴れたら押さえつけて毛を刈ろうね♪高値で売れるよ!
...ダジャレを構成するにあたっての順序が違う。【出来ちゃった婚ダジャレ】です。
※JR東日本『JR SKI SKI』 木村カエラ「FUNな関係 ?スノーレジャーを応援します編」
ゲレンデで自由なスタイルで楽しげに遊ぶ木村カエラ。最後は雪の上に寝転んで舌をぺロリと出した後、「なんでもありでSNOW」の一言でシメる。
⇒これキレイんじゃないですか?さらっと淡いタッチのダジャレですけど。つーか紛れもないダジャレ。無理がない。やっぱり、長澤まさみしかり、カエラちゃんしかり。カワイイ女の子にダジャレ言わせるっていうのは、ある種後ろめたさがあるんじゃないのけ?...とちょっぴり訛りつつ思ってしまうわけ。あ、この『思うわけ』の『け』は訛ってるわけじゃないですよ。あ、自意識過剰ですかゴメンなさい。何でしたっけ、そう後ろめたいんでしょ、きっと。オッサンみたいなこと思いついちゃったからその毒コピーを浄化するためにカワイイ女子に言わせる、みたいな。それほど、CM美女とダジャレはしっくりくる。【美少女ダジャレ】です。
【美少女ダジャレ】の別例として、堀北真希出演のサントリー『なっちゃんソーダ 問いかける少女編』などがある。「なっちゃんソーダ、出たんだそーだ」...んもう!!まきんぽったら!!...みたいなことですっかりダジャレの臭みに気が付かない。秋刀魚と大根おろしの関係。
※大正製薬『大正漢方胃腸薬』 野村克也「食べる前にノム編」
忘年会の席。長塚京三が乾杯の挨拶をしつつ、「それではみなさん、一言だけ。食べる前に...」最後、隣にいた野村克也監督が引き取って一言「ノム」でシメ。
⇒お前や!!と突っ込んであげるのが優しさなのかどうかは分からないが、もう典型的な【名前で一本釣りダジャレ】。ダジャレの質も流れも美しさも兼ね備えることが多い。なぜか。だってダジャレを言うためだけに出演してもらってるんだもん。当たり前だもん。『飲む/ノム』ありきでノムさん呼んでるんだもん。『食べる前に親分』『喝だコレ!!』っておかしいでしょ完全に。
【名前で一本釣りダジャレ】の別例としては、川崎麻世出演の川崎競馬「2006年JBC マヨわずカワサキ編」などがある。解説必要ですか。要りませんよね。もう麻世はいっそ死ぬまで出演すればいいと思います。
はあ...はあ...だめだっぺ...はあ...はあ...あえいでるんじゃないですよ。ため息です。じゃあ何だよ"だめだっぺ"って。
はあ...ダジャレが大嫌いな僕が、なぜダジャレCMをこんなに丁寧に分類せねばならないんでしょうか。それはダジャレCMに、ひと筋の光明を見出したからなのです!!!!!!!!(※ここで宗教音楽BGM)
ダジャレの現実化
お――――――――――い、等身大もこみち人形―――――――――――――!!!!!
ぅおおおおおおおおおお(馬場の声で)コラ―――!!!!もこみちは等身大であってもそんなに巨大じゃね―――――!!!!!
そう速水もこみち。ANAで中国やら沖縄やら爽やかに行きまくってるし、au by KDDIでは、仲間由紀恵とともに、「お、ごきげんだね!」「...むきげんですから」と、7回裏のピッチャーが投げる棒球のようなダジャレを披露したりしている。このダジャレ自体には特筆すべきことはなくて、美男美女が爽やかに言い放つことによって浄化されてるんじゃないのと思うくらいだが、あの!あのCMを見て僕は!きょうから僕は!
※サントリー『ビタミンウォーター』 速水もこみち出演 「速水いまいちシリーズ」
CG加工によるとんでもないイマイチFACEで情けない表情を浮かべる『速水いまいち』。しかしビタミンウォーターをゴクっと飲んだ瞬間FACEは一変!いつものイケメン『速水もこみち』へ。
一見、【名前で一本釣りダジャレ】のように見えなくもない。しかし、このCMを目の当たりにした人ならお分かりだろう。あの作りこまれた『いまいち』な顔。波田陽区と並んでも遜色のない『いまいち』な顔。
『いまいち』と『もこみち』。ここまでは誰にでも考え付く超初級編のダジャレだが、ココからが違う。
通常なら、本人に言わせるかナレーションで当てるか。テロップで字にしてドーン!...その程度。『ダジャレなんすよテヘヘ』で終わっていた。しかしこのCMは『もこみちがいまいち』というダジャレを現実化させ、ダジャレからスタートした発想のぶっ飛びという新たな地平へ...あー疲れた。カンタンに言うとですね、『ダジャレでも超シュールでオモロイの出来るんじゃん!』っていう発見。
その、発想をカタチに変えるクリエイティブの1つとして、『ダジャレの無理やり現実化』は確かに存在できる!...僕はこのCMを見て確信した。
ダジャレは、言葉の組み合わせを優先するため、どうしても文脈的にはシュールなモノになりがち。いいじゃないか。きっと僕はその先が見たかったんだ。ダジャレの向こうに透けて見える不条理空間。シュールレアリスムとは、『ワケワカラン』って意味じゃなくて『超現実』って意味で僕なりに言い換えればそれは『現実のスゴイバージョン』って意味で、現実世界に突然パックリ開いた割れ目の向こうに見える素敵な世界。
※注意: 今から挙げるダジャレは、僕が考えたものではありません。全力で言い訳しますけど色んなところからパクったやつです。このダジャレ全部考えたんだプッって思われるくらいなら著作権侵害で訴えられて無一文になるほうが100倍真島昌利。何だよ!僕にはこれが限界ダジャレですよ!
その1: 『カーテンには勝てん!』
霊長類最強アレクサンドル・カレリンを超える、インテリア家具類最強の男、その名もカーテン!!!!!!!窓に近づくヤツは誰であろうとブチのめすただそれだけのこと!!!!!外が見たいなら俺を倒してから行け!!!!突きも蹴りも効かん!!!ファブリーズをしたばかりのカーテンに怖いものなし!!!貴様らまとめて太陽の香りに包みこんでくれるわ!!!!!
その2: 『坊っちゃんが池に落ちた、ボッチャン!』
ご主人さま―――――――――!!!!!!!坊ちゃんが坊ちゃんが坊ちゃんがカエルプリンセスと共に池の中へ―――――!!!!!このままだと坊ちゃんは坊ちゃんは坊ちゃんは両生類になってしまいますあああああああああ!!!!!!!ご主人さま今奥様まで池に――――――――!!!!!!!オックサン!とお落ちになられました―――――――――!!!!!!!このままだとご家族揃って両生類に――――――!!!!!!!
その3: 『キーボードの希望通り!』
デビューして6年。アルバムもそこそこ売れ、金もそこそこ手に入り、俺たちは音楽性の違いに悩み始めていた。ボーカルとギターはこれからは民謡だと言い始め、ボーカルは蝋燭の前に立って歌い、ギターはスタジオに津軽三味線を持って現れるようになった。ドラムは俺たちに黙って性転換手術をし、もう筋肉をつけたくないと言ってカスタネットを打ち鳴らした。もう終わりだ。このバンドはもう終わりだ。だからこそ俺は、バンドのためを思って今こそやりたいことを提案してみた。「バンドをやめて、ラーメン屋をやろう」。メンバーはみんな、力強くうなずいた。
その4: 『熟女が来るのは19時よ!』
チェンジを繰り返すこと3回。どいつもこいつもガキばかり。ピーピーとわめくばかりで俺とは話が合いそうにない。次チェンジをしたら、そろそろ女じゃなくてイカツイ兄ちゃんが部屋に来そうだ。しかたがない、最後のチャンス。俺はもっと...もっと...甘えたいんだ。熟女が出勤するのは19時。部屋のチャイムがなった。俺はドアを開けそこには希望通りの熟女がお母-―――――さ――――――――――ん!!!!!出て行ったっきりずっと連絡をよこさないと思ってたらこんなところで働いてるんですかお母----さ――――――――――ん!!!!!!
その5: 『次男は痔なんです!』
やめてください!!!一郎兄さんも三郎兄さんもいい!!僕、四郎だって構わない!!でも!!でも!!次郎兄さんのケツを蹴り飛ばすのだけはどうかやめてください!!!僕たち4人、お笑い兄弟カルテットとしてここまで頑張ってきたんです!!これからどんどん売れていきたいんです!!罰ゲームだって何だってやります!!けど...けど...次郎兄さんへのケツバットだけはやめてください!!!!次郎兄さんは中1の時からの痔主なんです!!!!お願いします!!!あ、あと熱湯風呂もダメです!!!!乳首相撲だったらできます!!!お願いします!!!
これからのダジャレ
社会の潤滑油と言われ、最近ではダジャレ関連本もいくつか出版されながらも、やはりオヤジギャグと混同され、ともすればクリエイティビティの低い笑いと認識され続けているダジャレ。僕だっていまだにそう思う。これからもダジャレを口にすることはないだろう。しかし一方ではさまぁ?ずの『悲しいダジャレ』のように、ダジャレを入り口として新世界を見ようとする動きは増えてきているのかもしれない。ダジャレがオヤジギャグと蔑まれる一番の理由は、口から出た瞬間、考えることを放棄するからであり、イメージを膨らませようとしないからであり。
その先に楽しくクリエイティブなことへの扉が両手を広げて待っている。誰の前にも待っている。あとは自分がそこに行くか行かないかだけ。クリエイティブなんてしょせんそんなもん。面白がりたいと思うならいくらでも面白がれるし楽しくなりたいと思うならいくらでも楽しくなれる。
ダジャレしか思いつかねーよって人はそこをゴールじゃなくて入り口だと思えば、その先に『速水いまいち』が待っているはず。等身大(2メートル20センチ)で。そんなデカくねーよあいつは。