今、この瞬間さえ終われば、もう二度と会うことはない。

 

僕にとってのその人は、まさに文字通り今この瞬間がすべてでこれは何か名言っぽいことを言おうとしているわけではありません。もっと言えば、僕にとってのその人の顔は、その時の顔です。

 

大学に入学してちんたらサッカーしたかった僕はサッカーサークルに入りまして冬。下宿している同期の家で鍋でもやろうということになりました。同期は15人ぐらいです。結構広い部屋でしたがギュウギュウでした。

その鍋会には部員だけじゃなくて、同期のマネージャー二人も珍しく参加していました。実家暮らしのお嬢様はそんな小汚い下宿でお泊まりなどなさらないからです。



 

僕らのサークルは、自分の大学からはマネージャーを実質的に採用しませんでした。理由はかわいくないからです。

毎春、二回生のお仕事として、朝、周辺にある私立の女子大にだけ勧誘のビラをまきに行きます。理由はかわいいからです。

で、その同期のマネージャーも、そのようにして勧誘されて入部したわけですけども、彼女たちは当然、僕らの一コ上の先輩が勧誘してきたということになりますよね。その一コ上の代がまあ、そういうのをめんどくさがるクソの集まりでしてですね()

ロクにビラをまきにいかなかったわけですよね、その結果二人しか集まらなかったと。

 

 

それなりに楽しく鍋を食べ終えて、酒を飲んだりギター弾いたりゲームしたりして時は過ぎ、夜も更けていきました。

さすがに眠いと。寝るかと。みんな布団引いたり毛布にくるまったりコタツに入ったりしてゴロゴロ転がり始めました。

部屋の隅っこで座って部員たちを見つめるマネージャー二人。何をしてるんでしょうか。

何してんの?と聞くと、いや...別に...何か...みたいな感じでモゴモゴ言ってるのでイライラしたんですけど、

寝たら化粧とれるから寝ませんと。このまま始発まで待って帰りますので構わず寝てくださいと。

 

あ?

 

僕は実験室のショウジョウバエのように純朴に生まれ育ちましたので意味が良くわかりませんでした。

化粧とれる?化粧ってとれたらあかんの?化粧とれたらどうなんの?顔洗って寝たらええやん。お前らなんか誰も襲わへんがな。サムイのう。空気読めよ。

 

女が化粧をする、という行為を母親以外で確認したことがない僕は、化粧を人前で落とすということを驚くほどの力で拒む女がいて、それは別に特別なことでもない、ということもまだ知らなかった。

化粧の歴史とか考察とか女性の意識とかは、みなさんのお好きなようにお調べ頂ければ結構かと思いますが、僕にとっての彼女らの顔は、必死に守ったその時の顔なのだなあと思ったというだけのお話でした。大げさすぎますよね。



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本日配信分の一部を抜粋したものです。

 

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