ほんとうですかほんとうですかイイ声が女子にモテるってほんとうですか。ブサイクでもいいか?しょうゆorソース顔じゃなくてもいいのか?あせりすぎて脳味噌箪笥の過去の引き出しがパッカリ開いてしまいました。

 

エエ声ーー。エ・エ・コ・エーーエ・エどうでしょうそこのお方。エエ声ですか。

 

ある専門家の調査によると。ある専門家ってうさん臭いなおい。でも信じて名前ド忘れしただけなの。ある専門家の調査によると。五感の鋭敏さで1番男女差が際立つのは、「視覚」と「聴覚」らしい。

 

その専門家くずれ。いやだから崩れてはいないんだけれども。その専門家はどんな調査をしたのかというと、男と女に、それぞれエロビデオを見せたらしい......俺も是非、名乗りたい専門家。蹴りたい背中。あと情報筋も名乗ってみたい。すじ。

 

男は、エロビデオの音声をミュートしても目的を余裕で完遂したが、音声のみでは半落ちだった。半落ち?そうかもな。

 

女はその正反対。エロビデオの映像だけでは興奮できず、音声のみを聞かせるとハアハア言い出した。ハアハアって何かイヤ。

 

ほんとうですか?こんなシンプルな結論?本能的な部分では、女は顔なんかよりも声のほうに、ビビッドな反応を見せるってこと?ってことは、イイ声はモテるってこと?信じる。専門家風情のこと信じる。っていうか、この声のパワーって、クリエイティブにもつながってないか?女をフウフウ言わせるくらいだもん。あれフウフウだっけ。ヘエヘエだったか。そんなこという女はいないしホオホオいう女もいない。いるけどな(大人発言)

 

イイ声がもたらすクリエイティブパワーは確かにある。ある情報筋からそんなネタを入手したことにして、検証に入ろう。

 

 


 

1 イイ声とは ―経験上の話―

 

あれは高校2年の夏休み。花火大会に出かけた仲良し男女グループ6人組。そろそろ、誰もが誰かと一線を越えたがり越えられたがっていることは、腋の下からムンムンあふれ出すティーン特有のフェロモンからも明白であった。

 

何でしょうかこの話は。

経験上の話って、初体験の話をしているんでしょうか。

間違いました。

 

 

仕事柄、録音された、人の声の波形を見ることがある。それを編集するディレクターのボヤキも聞いたことがある。

 

『わ、この人、イヤな声だなーと思って収録したんだけど、やっぱり。声の波形に、滑らかじゃなくてチクチクしたトゲがある』

 

『聞きづれーなーと思ってたら、やっぱり。波形同士がくっついてるしメリハリが全然ない』

 

うっせーばーか、お前が早く編集しないと俺帰れねーだろと思ったことは生まれてこのかた1度もないが、「イイ声じゃないな」と直感的に思ったものが、デジタルとなって波形に現れている現場には、たびたび遭遇した。生ごみのように編集機の前で眠るディレクターの後姿にもたびたび遭遇した。

科学的検証は後回し。「イイ声とは、イイと感じた声のこと」。まずはこんな暴力的な仮説を立ててみたい。

 

 

2 イイ声クリエイター大集合

 

 

※福山雅治(イイ声アーティスト&イイ声俳優)

 

小雪―。アタイも耳元で言われてみたい。小雪―。アタイも小雪に改名しようかしら。あっ改名なんかしなくても大丈夫!アタイの名前をそのまま呼んでもらえばいいんだ!お願いマシャ!アタイの耳元で、アダムスキーって呼んで!外人さんでしたか。目を閉じれば福山雅治。『キシリッシュ』のCMで、福山のイイ声は息レベルにまで到達。神クラス。普通、あのお顔をお持ちのお方なら、お顔を画面でお見せしたいとお思いになるおクライアントは山ほどいるはずなのに。アップルの『PowerBook G4』ではお顔出さないCMナレーションもご担当でしたわ。彼の全方向的好かれっぷりは、全方向的なクリエイティビティにつながっているのか。とにかく有機物無機物問わず名前を呼ばれたい人ナンバーワン。

 

 

※伊武雅刀(イイ声俳優&イイ声で夜間飛行のお相手)

 

どうもこんばんは。伊武雅とヴヴヴヴヴヴヴヴヴ。人間バイブ。震えて椅子から落ちないか心配だイブさん。胃壁まで震えます。ああいう声聴くと。食後にチョコ食ってブランデー飲む的な超大人なイイ声。よって渋い大人の役ばかり回ってくる、こない、くる、こない、くる、こない、くる......こ、な、か紳士服コナカ関係ないでしょ今。それにしてもイブさん変態みたいな役ばっかりじゃないですか!とろけかけのチョコのようにじっとりとした視線でこちらを見つめてじっとり笑うその姿!何それ!役作りなのか元々なのか生まれた星が違うのかイブさん目が笑ってません目が!異色俳優もほどほどにして!イイ声なのにド変態。イイ声なのに狂ってる。イイ声なのに...そのギャップが生み出す異次元のネジレに酔いっぱなし。

 

 

※リリーフランキー(イイ声イラストレーター&イイ声エッセイスト)

 

『東京タワー』はダメ。もうオカン話はダメ。体中の涙腺が臨戦態勢に入るからダメ。体中?

 

それはさておきリリーさんはイイ声。もうさすがにリリーさんの顔を知らないという人も少なくなったとは思うが、あのどうしようもない「リリーくん」イラストみたいな半ズボンな雰囲気をイメージしていると、ホント痛い目に合う。

 

そりゃモテるわな。これがリリーさんに初めて会ったときの第一印象。革の上下をバチバチに自然に大人っぽく着こなして足を組む姿もそうだけど、まずイイ声。バーカウンターに並んで座って耳元であんなイイ声で「ただ巨乳だからって何でもいいわけじゃなくて...」と語られた日にはねえ。語りませんけども。いや語るかもしれませんけれども。あのイイ声なら1時間巨乳の定義の話でも良い。女にもそう思わせるリリーフランキーはすごいわね。あ俺男だったわね。

 

 

※岡康道⇒多田琢(イイ声クリエイティブディレクター&イイ声CMプランナー TUGBOAT

 

TUGBOAT。まあ相変わらずの勢いですわ。もう何度も紹介してるからあとはネットとかで知ってその勢い。多田さんのFMV横綱肩車編も面白かったし。さて、多田さんは認めないかもしれないけど、声のトーン、大きさ、口調、全部岡さんに似てる。「ああ、多田さんは岡さんのことをホントにリスペクトしているんだな」と。そして2人ともイイ声。ここまで、前例がないタイプのCMを数々作り出してきた2人。なぜ実現できたのか。イイ声だからじゃないか。あんなイイ声でプレゼンかまされたら、どんな大企業のおっさんでも「あ、何か良さそう」と思うはず。CMの中身の話じゃないですよ岡さん。「ちょーっとシュールすぎてよく分からん」とか、「それ新商品のPRになってるのか」とか、おっさんは言いがちじゃないですか。それをかいくぐって、そこまでのクリエイティビティを発揮してきた理由の1つに、イイ声は確かに存在するはず。

 

 

※鏡リュウジ(イイ声心理占星術研究家)

 

女性誌だけでなく、テレビラジオでも大活躍中。大人気占い師。なんで大人気なのこの人。あ、イイ声なのか。占いで同じこと言われるんだったら、どうせならイイ声でお告げられたい。

 

「アナタは来年、大恋愛をしますよギャーギャー」とか出川哲郎に言われたらちょっとヘコんで家に帰りそう。全然嬉しくない。どうせならうっとりしながらいい占い聴きたい。悪い占いでも、イイ声で救われたい。そして鏡リュウジはイイ声。だからこそ大人気。何でも納得しちゃう。

だってさ。字面で見るだけの占いだったら、どれも同じじゃん。当たってるとか当たってないとか、別にどっちでもいいような内容だし。テレビでやってる占いだって、ラッキーアイテムが秋ナスだと言われたからどうなんだと。占いのくせに季節感意識してんじゃねーよ。一喜一憂したくねーよそんなもんで。ラッキーアイテムが「ダンボールを留めている業務用ホッチキス」とかだったらどうすんだ。一日中それ眺めて過ごすか。

 

 

さあ...これらの共通点でも探すか。

 

共通点⇒なんか響く。こんなもんかな。そろそろ殺されますね専門家に。もう少しましな分析とかできないのか。

とはいえ、『響き』って大事なんじゃないの?目を閉じて聴いていると、フヨフヨビリビリと、ある種テルミン的なソノリテを感じる。

気持ちイイねやっぱり。こういうのって、やっぱり天性のモノなのかしら。俺たちみたいにアブラゼミの鳴き声と変わらない程度の声しか出せない凡人には、手の届かないものなのか。

 

 

 

3 声の悪い女 ―目指せイイ声レポート―

 

 

 

東京に、声の悪い女あり。悩みあり。

いくらイイ企画を出しても、会議で通らない。特に利害関係のない人間からも目のカタキにされる。クリエイティビティーを思うように発揮できない。なぜだと。

俺はその答えを知っていた。彼女の未来の鍵を握っていた。さあともに行こう大磯へ。ロングビーチに行ってどうする。夏の初デートか。大磯へは行かない。行くのは、イイ声のパライソ。

 

俺は彼女に1冊の本を差し出した。

 

上野直樹・上野直樹ヴォーカルスクール代表著、『5分間でいい声になる本 ―ミラクル版』。

俺は彼女の未来の鍵を握っていた。どうして仕事が上手くいかないのかを知っていた。

 

声が悪い。かすれている。響きがない。一本調子。

 

この本を使って、5分でイイ声におなり。おなりっていやらしいな。そして、カナリヤのように変身した声を聞かせておくれ。

 

そして数日後。彼女から1枚のレポートが届いた。オーンオンオン!オーンオンオン!俺は鬼の泣き声で泣いた。慟哭した。みなさんにもお見せしよう。彼女の苦闘を。

 

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私が手にしたのは、元小結の舞の海やSMAP中居正広をクリエイティブボイスに変身させたという伝説のボイストレーナー、上野直樹先生の著書である。スゴイ。5分でいいのだ。30年間に及ぶ長かったダミ声とも今日でお別れ。5分後にはクリスタルボイスのクリエイターとして生まれ変わるのである。フフフ。フフフフフ。あははははははー。

 

さてと。濁った笑い声を響かせたところで、さっそくトレーニングに入るべし。

 

 

 

【レッスン1:声が響くようになるトレーニング】

 

「口を大きく開け、声を出すことなく口蓋垂を上げたり下げたりしてみましょう」

 

・・・・なんのコト?口蓋垂?こうがいすい?ああ、ノドチンコのことね。OK。レッツトライ。ハガハガハガ、ガッ、おえっ、おえー。えずいてしまいました。失礼をいたしました。っていうかこれムリ。できない。パス!

 

 

 

【レッスン2:声の強弱をコントロールできるようになるトレーニング】

 

「四つんばいになり、口にペットボトルをくわえます。そして『あー』で発声してみましょう」

 

...やるのかこれを?やらねばならないのか?ならないか。そうか。やってみよう。四つんばいになってペットボトルをくわえたところで細心の注意を払う。もちろんいい声のためではない。周囲に人がいないかどうかである。右よーし。左よーし。では始めよう。四つんばいになり、ペットボトルをくわえ・・・ボトっ。ペットボトルをくわえ・・・ボトッ。ってできないじゃん。手で支えないとペットボトル落ちちゃいますよ、先生。もっと奥に入れるってこと?ペットボトルをくわえ...っておえーーっ、おえ!!またえずいてしまいました。失礼をいたしました。いえ、大丈夫です。胃が持ち上がっただけですから。ご心配なく。

 

 

 

さてと。あーもうやんなっちゃってきたな。ちょっと寝ようかな。少し横になる程度で、ぐっすり寝るとかじゃなくて。だってえずいちゃったんだもん。だめ?だめか。そんなんじゃクリエイティブになれないか。そうか。じゃあやります。最後のレッスンです。

 

 

 

【レッスン3:舌を自在に使いこなすトレーニング】

 

「両方の奥歯で2本の割り箸を軽く噛んで固定します。舌の真ん中あたりを動かすキモチで『なーなーなー』です」

 

...なーなーなーです、って言われても...まあいい。文句言っちゃだめ。もうとっくに5分以上経過してるとかそんなこと考えちゃだめ。やってみよう。両方の奥歯で2本の割り箸を軽く噛んで、アガーアガーアガー!です。・・・ってあれ?なーなーなーにならないぞ。両方の奥歯で2本の割り箸を軽く噛んで、アガーアガーアガーです。ん?おかしい。もう一度。アガーアガーガガオエっおえーーー!おえーーーーー!!!!

 

先生、もうやめてもいいでしょうか?!

 

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二度と会いたくない。正直そう思った。狼に育てられた少女に言葉を教えている様子かこれは。すべての表現がアニマル過ぎる。しかし、会わなければいけないだろう。彼女がどんな声を獲得し、どんなクリエイティビティを発揮するのか、この耳でしかと受け止めなくてはいけない。

 

 

3日後

 

俺は彼女と会った。見た目には変化なし。「ひさしぶり?...ん?何か変わったといえば変わったかもしれない。でもコレだけじゃ分からん。それとなく世間話を始めた。彼女は『渡る世間は鬼ばかり』の素晴らしさについて、という、本当に心からどうでもいい話をおもむろに開始。いいぞいいぞ!このどうでもいい話、いいぞ!さらに話を聞く。無心になって聞く。果たして彼女は、俺に『渡る世間』の素晴らしさを認めさせることができるのか...

 

「あのねー、1番の魅力は、登場人物の意見が、毎週のようにコロコロ変わるところ!あと性格がいいのがピン子しかいないっていうギャップもたまんない!普通悪役でしょピン子は!あと子供から年寄りまで、登場人物全員が同じ言葉遣いっていうのも気になってしょうがない!子供が『お弁当こしらえる』とか言わないでしょふつう!こしらえるって何!」

 

...結論から言おう。全然声変わってないよ。明らかに変わってない。でも俺はちょっとだけ、「1回見てみようかな」と思った。『渡る世間』には、えなりくんとピン子が出ている、ということしか知らない俺に興味を持たせたのは、聞き取れないような変化が声に生まれているのか、もしくは『渡る世間』にかける熱意がアホみたいに強いのか。それは分からなかった。

 

彼女は、このレッスン、もう少し続けてみる、と告げて去っていった。もう二度と会うことはあるまい。

 

 

 

4 イイ声とは ―本で読んだ話―

 

さて、もう1冊手元に残った、上野直樹先生の本を開いてみた。

イイ声イイ声って言ったって、イイ声って何よ。その答えを、上野先生は明確に出していた。

 

『イイ声=地声』

 

ぢごえ!俺は「じ」をわざと「ぢ」とか書くやつ大嫌い!地声!地声こそイイ声!どういうことだ先生!教えてくれ!うちの!うちのリッキーちゃんの命は、あとどれくらいなんですか!何だ犬か。

 

そんなことはどうでもよくて地声ですよ。上野先生いわく、「地声には無理がない」「地声とは自然体」「自然体だからこそ相手に伝わる」「いつも地声で伝えられるようにコントロールできる人がイイ声の持ち主」だそう。

 

そうかも。自然な声なら、その場に応じて声が変わるのは当たり前か。地声じゃないから、空気が読めてない声を出したりするのか。アガーアガーとレポートで吠えていた彼女には、地声をキレイに出すための顔の筋肉と舌の訓練が足りなかったか。

 

さっきあげたようなイイ声のクリエイターは、意識してイイ声を作っているわけじゃなくて、意識して地声をコントロールするのが上手い。そういうこと。つまり、「あいつ、自分が元々イイ声だと思って調子コキやがって!家のポストに、ウチのリッキーの糞でも投げ込んでやろうか!」というようなやっかみは、全く当たらないということだ。だって、無意識にイイ声なんか出せないんだもん。コントロールするからこそイイ声は生まれる。コントロール万歳!コントロールよ永遠なれ!操るぜ、地声!

 

 

 

5 イイ声とは ―自分で考えた話―

 

五感のうち、視覚から得られる情報量は、全体の80%にも達する、という説と、だから何なんだ、という説がある。

 

確かに、俺たちは目で見る情報に頼って生活をしている。しかし、大事なことを忘れている。

太陽って見たことある?あるよね?目がつぶれるかと思ったでしょ。でもつぶれなかったでしょ。

 

難しい話をします。人間の目には、角膜があって、水晶体があります。まぶしかったり、怖かったり、イヤだったりすると人間の目は、その情報を、あんまり受け取らないように動きます。難しい話終わり。

 

いいか!目にはな!フィルターがかかってんだ!俺たちが「見た」と思っているのは、そんな個人個人の都合でいじられた偽物だ!ホントに見たくないときは、まぶた閉じてシャットアウトだ!最悪だ!100%、こっちの思いを伝えられることなんか、永遠にこない!

 

でも耳はな!手で押さえない限り、全ての音が、フィルターなしでダイレクトに鼓膜まで届くぞ!伝えたい言葉と音だけが、相手を100%震わせるんだ!だからイイ声は大事!金と地位と名誉と菓子パンの次に大事!コラーッ!せめて菓子パンより上にしてーっ!

 

 

イイ声は大事。っていうか声は大事。舞台俳優みたいな声出せって言ってるわけじゃない。

自分のホントの声をいつでも出せって言ってる。そうすれば本当のクリエイティブが勝手に向こうからやってくる。