■■ 序 ■■

 

また10月が来ましたか。日本は4月から1年を始める素敵な国ですから10月が来たってことは半分過ぎたということです。

 

ご存知のように放送業界には3か月区切りの『クール』と呼ばれるドイツ語由来らしき用語がありますが、

 

1月期4月期7月期10月期となっておりますね。

基本的にはこの3か月を1つの単位として番組は運営されているわけです、もっとわかりやすくいうと、番組がこの単位で終わったり始まったりします。

 

 

こういった各クールの終わり頃は非常に胃に悪い時期でもありました。

僕らは受注専門の下請け企業なもので、発注がなくなれば仕事はありません。

こちらの持ち込み企画でスポンサーまでくっつけてきても、最終的には放送局の電波を借りないと何もできないんですから身分差は明確ですし、番組が終われば、もしくは番組をクビになれば、当然その分収入は減ります。

ポジれば新番組始まって10月から忙しくなっちゃってウハウハ、みたいなことなんだろうけど、忙しいというより、収入の乱高下っていうのはやっぱり精神にはよろしくないですよね。

若いときは何とか持ちこたえられますけど。

月収100万あったのが来月からは5万とか、平気である話ですからね。

 

こういうリスクをヘッジするためにも、人づきあいとかコネとかは相当重要になります、当然のことながら。

 

「クリエイターみたいなこと気取っといて結局コネかよ、糞業界人死ね!」とお思いでしょうけど、コネ無しの才能だけでメシ食ってる人がいる社会集団なんてあるんですかねえ。

 

コミュ障の僕が言ったって何の説得力もないですけど。

 

 

 


 

才能だけで生きていくことができる人は、日本で5人ぐらいです。多くて10人。

その点については、早々にみなさん、あきらめてください。

あなたも僕も彼らも、当然その10人ではない。

誰もが夜な夜な、心のアナルをオッサンに差し出しています。

ホモならまんざらでもないし、ノンケなら熱いシャワーを浴びながら泣く。それだけの差です。

 

才能と世間で呼ばれるものを使う仕事であろうと、ベルトコンベアで流れてくるバナナの房を青龍刀みたいなのでバンバン切っていく仕事であろうと、僕らは仕事を金に換えています。

 

昔、中島というおっさんが港でそういう仕事をしていて学生だった僕はその話を聞いてゲラゲラ笑いました。

バナナはご存じのように、あのひと房みたいな塊が何重にも重なるように束になって木にぶら下がって生ります。

そんな巨大な束がベルトコンベアで一日中流れてきておっさんは血の気の多い中国マフィアかもしくは関羽のごとく青龍刀を振り回していました。そんなん聞いたら笑うでしょう。

 

もちろんそれは無礼な行為なんですけど、中島のおっさんはニコニコと、いやー今日も一日バナナを切って肩が凝ったわ!と世間知らずのガキである僕を許容してくれました。単に何も考えていないだけだったかもしれないけど。

 

 

久しぶりに中島のおっさんの話をしようかな。

どこかで話したことはあると思いますが。

 

中島のおっさんは、おそらく当時40代半ばぐらいだったと思います。

 

四角い顔とメガネと人懐っこい笑顔。笑えば歯が抜けまくった口元が間抜けで、それも愛嬌でした。いつも同じ、汚れたベージュの作業着と帽子をかぶっていて、黒いスラックスはつんつるてんでした。

 

中島のおっさんとはバイト先で出会いました。繁華街のど真ん中にある時間貸し駐車場の管理と誘導係です。

社長、ヤクザ、酔っ払い、野球選手。夜になれば色んな人たちが車でやってきます。

そんな駐車場で働いていた僕のような学生バイトの他に、何の意図があるのか良く知りませんが、駐車場は、死にかけの年寄りやホームレス一歩手前のようなおっさんを雇っていました。

 

中島のおっさんはそのうちの一人で、彼は夜にしか現れませんでした。

話を聞けば、昼間は日雇いのような仕事を神戸港でやっているそうで、それが終われば日付が変わる頃まで駐車場で働いていきます。

 

 

 

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本日配信分の一部を抜粋したものです。

 

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