ものすごく曖昧な言い方だが、自分が年を取ったときのことを考えたことがあるだろうか?
『かわいい孫に囲まれて、幸せに...』
『どこか南の島で、のんびりと...』
古い。ダサいとは言わない発想が古い。何て凝り固まった頭なんでしょう。まるでお年寄りみたい。
若ければ瑞々しくてエナジーがあって、年を重ねれば脂ぎって実行力があって、もっと年を取れば枯れて使い物にならない。
無礼ですか。でもそう思ってるでしょ。こんなステレオタイプなイメージを、即捨てていただきたい。埋立地に埋めていただいてお台場を広げる助けにしていただきたい。お願いしすぎですか。でも捨てて。
ロックに年齢なんて関係ない、なんてつまんないことは言わない。はっきり言おう年取ったほうがロック!若さなんてダメダメダメ!ロックじゃない!ロールすらしてない!シルバー世代は枯れてなんかない!渋味なんか出してない!ひたすらロック!
ホラご覧。白いマットの5つのジャングルに、シルバー★ロックファイターたちが、次々と大集合だ!
熱き戦いをその眼で、しかと見届けろ!
第1戦:楳図かずお (68歳) vs 水木しげる(83歳)
※選手紹介
楳図かずお:1936年生まれ。幼児期より絵を描くことに非凡な才能を示し、1955年にプロデビュー後、『ラブコメ』ジャンルの開拓者となる一方で、恐怖路線でも脚光を浴びた。1976年からは『まことちゃん』を発表。「グワシ」を始めとするシュールなギャグが大ブレイクした。
・水木しげる:1922年生まれ。1942年、陸軍の兵隊としてラバウルへ出兵、爆撃によって左手を失う。1966年講談社児童漫画賞受賞をきっかけに、「ゲゲゲの鬼太郎」「悪魔くん」「河童の三平」など、多数の漫画を創作。また、「妖怪研究家」としても著名。
さあ!いきなり濃い口だー!まずは漫画家ルールで行われるシルバー★ロックファイト!ゴングを待たずに飛び掛かる楳図!おそらくいきなりあの必殺技、『グワシ』が飛び出す...あああっ!違う!右手の甲を上に向けて指だけを下にカクカクと折り曲げている!出た!グワシ以来20数年ぶりの新・一発ギャグ、『ギョエー』だっっっ!衰えることを知らない一発ギャグ欲!そして衰えることを知らない赤白ボーダーTシャツへの愛!さらには、住まいのある吉祥寺から23区内だったら、ほぼ徒歩圏内というレベルの乗り物嫌い!先生歩きすぎ!往復だけで丸1日!この恐ろしい技の連続を、水木は受けきれるかどうかっ!?
あーっと!83年の人生の中で『胃がいいので、人生の中で食事を残したことは2,3度しかない』アタッーーーック!一体何を残したんだ水木!その3回の食事メニューが気になって気になって仕方ない!と思う間もなく、二の矢、三の矢が飛んでくる!水木の功労を称える、故郷・境港市の『水木しげるロード』に、83歳にして、新たな妖怪を登場させてきたー!
商人の荷物運びを手伝う妖怪「異獣」!いいヤツ!お前いいヤツだね!ありがとう異なる獣、異獣!なんだそれ!分からん!分からんが、個人的には、「駅前に並んだ放置自転車を端っこからチョコンと押してドミノ倒す妖怪がいる」という都市伝説を思い出した!水木先生!次は、この妖怪頼む!ねずみ男より弱くていいから!
第2戦:篠山紀信(64歳) vs 荒木経惟(65歳)
※選手紹介
・篠山紀信:1940年東京都生まれ。広告制作会社『ライトパブリシテイ』を経て68年よりフリー。70年代の雑誌「GORO」の「激写」シリーズなど数々の話題作を発表。写真集はアイドルや、東京の街をテーマにしたものを始め200冊を超える。
・荒木経惟:1940年東京都生まれ。電通を経て72年よりフリー。71年新婚旅行を克明に写しとめた実質的な処女写真集「センチメンタルな旅」を自費出版し、「天才アラーキー」の名でブームとなる。「私写真」という独自の世界を確立した。
さあ!続いては写真家ルールのシルバー★ロックファイト!百獣の王ライオンの誇りを思い出すかのように、タテガミを逆立てるキシン!そしてその後に入場してきたのは、サイドヘアーでビンビンに妖怪を感じているノブヨシ!あっノブヨシって読むのか。でもアラーキーだろ。
さて!キシン対アラーキー!同学年巨匠対決!そして元・広告カメラマン対決!意外と共通項の多い両選手だが...きたっ!まずは天才アラーキーが攻める!「写真とは3Pだ!」と、涼しげな顔で叫んでいる!サンピー!何を言っているアラーキー!現実と虚構!愛と性!生と死!扱うテーマは普遍的なものだけに、進む道にゴールなし!セックスにもゴールなし!
「撮ってるときは情事の時間!」エロパワーに陰りなし!中途半端なエロはただのエロ。とことんエロければ、その先にはアートが待っている!エロエロ言い過ぎだ俺は!
さあ、負けじとキシンも反撃!「デジキシンは僕のもう1つの人格です」何だその設定は!何を言っているキシン!
ネットの普及に遅れを取ることなく、デジカメ導入、ネットで作品発表、そして、デジタルに突き進むのは「僕のもう1つの人格。新人写真家、デジキシンです」恥ずかしげもなく叫ぶキシン!先端でなければ意味がない!その発言のウラには、「技術さえ学べば、俺は全てでナンバーワンになれる」という強い自信!その姿は、最期の瞬間まで常に泳ぎ続けるマグロのようだ!よっ回遊魚!英語で言えばアローリングストーンギャザーズノーモス!カタカナ読みづらい!
第3戦:秋山晶(69歳) vs 仲條正義(72歳)
※選手紹介
・秋山晶:1936年生まれ。ライトパブリシテイ代表取締役会長。東京コピーライターズクラブ(TCC)会長。本来匿名なモノであるはずの「コピー」に、書き手の感性を注入した第1人者。特に、『キユーピー』の広告シリーズは、40年以上に渡って担当している。
・仲條正義:1933年生まれ。資生堂宣伝部などを経て、1960年よりフリー。となり、1961年中條デザイン事務所設立。ザ・ギンザ、松屋銀座、資生堂パーラーなどのデザインも手がける。
おーっと!こちらのリングでは、コピーライターとデザイナーの戦いが、すでに始まっていたー!
古き良きアメリカの風景に、憧れにも似た感情を抱く人は多いだろうが、そのアメリカ憧れ成分の半分は、秋山晶で出来ているーーっ!!本当かーっ!自信はなーいっ!でもたぶんそうじゃないかなーっ!誰としゃべってるのかーっ!『もう1つの人格、デジキシンです』あっデジキシン!乱入禁止!
「カーラジオをつけたまま、サンドイッチを食べた」俺も食べたい!「ポニーテールと待ち合わせ」待ち合わせたい!「BLTサンドイッチとアイスウォーター」BLTって何!ベーコンレタストマト!「荒野にいるときよりも、シカゴにいるときのほうが寂しかった」ああああああ乾いてる!客席が憧れのまなざしに!アメリカっていい!自分のやりたいことをただひたすらにやり続けることがロック!それはそうだろう。しかし、秋山は、年齢を重ねれば重ねるほど新しい!生み出しすぎ!永遠の単為生殖、秋山!選手だからTCC会長でも呼び捨てだぞ秋山さん!
対する仲條は...ザッツロック!常に生き方もデザインもロック!『デザインは、闘争心と若さだから』『創作活動に適しているのは...やっぱり健康より不健康』きたー!ダブルアタックが飛び出した!闘争心と若さか!なぜそう言い切れる!納得しちゃうじゃないか!デザインはオサレな雰囲気モンなんかじゃねー!銀座の街並みをその手で生み出しながら、恐ろしいほどロックンロール・フォーエバー!仲條にとって、デザイナーってなんなんだ!『外野フライをワザと外して、ホームで刺すこと』!悪ガキ!いたずらっ子!落とし穴掘る発想!先生に怒られちゃうよ!常に何か仕掛けてやろうと狙い続ける姿勢に、観客もレフェリーも目が離せない!
第4戦:団鬼六(73歳) vs 渡辺淳一(71歳)
※選手紹介
・団鬼六:1931年生まれ。1957年、『親子丼』で文藝春秋オール新人杯に入選。『花と蛇』や『夕顔夫人』などの傑作を生み出し、官能小説の第一人者となる。
渡辺淳一:1933年生まれ。作家。代表作に『遠き落日』『失楽園』がある。初老の男女による不倫を描いた『失楽園』は大ブームを呼び、映画化・TV化され大ヒットした。現在、『愛の流刑地』を日本経済新聞に連載中。
なぜ、シルバーはロックなのか!その1つの分かりやすい答えを持って、2人が入場!ずっとエロいからロック!エロさを失ったら男は終わり!そんな2人が、今、激突するっ!
さあ行った行った、縛りにいった団鬼六!エロの鬼!SMの巨匠!S&M's!チョコみたいに言うな!代表作『花と蛇』では、杉本彩がどエロに開眼!映画でグルングルンに縛られている!その亀甲縛りを、今ここで見せようと言うのか!俺は亀甲縛りの手順を縛りの専門家に教えてもらったことがあるが、あれはアート!すっごい上手いことできてる!
それはさておき!団鬼六を、ただのエロ作家だと思ったら大間違いだ!『不貞の季節』を読め!『鹿の園』を読め!なんだか猛烈に情けなくておいおい泣きながら、なぜか勃起!なぜか興奮!男の理性も感情も、グジャグジャにしてしまうエロの鬼!いくつになってもエロの鬼!自称インポ歴15年!枯れていくのかと思ったら、発売されたばかりのED薬を試して、若いSM嬢を押し倒す男、それが団鬼六!
この渦巻くエロアタックを前にして、渡辺淳一は、どんな反撃を試みるのかー!
渡辺淳一イコール不倫。『失楽園』の大ヒットで、そんなイメージが染み付いてしまったが、大ヒットのあまり、「もうああいう感じのドロドロした話は勘弁」な人たちを生み出したのも事実!さあどうする!ああああああ!学習してない!学習効果なし!それもまたロック!出た、最新作『愛の流刑地』!アイのルケイチ!略して『アイルケ』!ケで終わるなケで!気持ち悪い!抜けが悪い!しかし、『愛の流刑地』...網走番外地しか思い浮かばねーよ!ベタというかベタじゃない!ここまで「今さら」なベタをやりきっちゃうのは渡辺先生だけ!「そのうしろ姿を見送りながら、菊治の目は冬香の細っそりしているが、柔らかそうなお臀のふくらみを追いかける」...自分の趣味丸出し!55歳男と30代後半の女がねっとりからみあう!趣味丸出し!自分の趣味と欲望を万人にお伝えし続ける男、渡辺淳一!実践VS妄想、まだまだ、2人の戦いは続きそうだー!
第5戦:内田裕也(65歳) vs 樹木希林(62歳)
※選手紹介
・内田裕也:1939年生まれ。プレスリーの「監獄ロック」にしびれ、高校を中退してバンドボーイになる。62年、寺内タケシとブルージーンズにボーカルとして参加。タイガースを発掘し、内田裕也とタイガースを名乗る。その後、フラワー・トラベリン・バンドのリーダーとして活躍。タイガースや矢沢永吉のキャロルなどを発掘した。73年にスタートさせた「ニューイヤー・ロック・フェスティバル」は恒例イベントに。映画にも多数の出演を果たしている。
樹木希林:1943年生まれ。61年、文学座付属演劇研究所の1期生となる。当時、芸名は「悠木千帆」だったが、テレビ番組で「売るものがないから」とオークションにかけてしまい改名。70年代、「時間ですよ」「寺内貫太郎一家」などのテレビドラマで脚光を浴びた。内田裕也とは73年結婚。娘・也哉子は本木雅弘と95年に結婚した。
め・お・と!め・お・と!...さあ、夫婦コールに包まれて、2人の戦いが始まろうとしています。
「人間として生まれるということは、何かしら波乱があると思ってますし、私は、その波乱が好きで、ずーっと主人と別れないでいるんですよ。」先制パーンチ!樹木の波乱大好き気質が炸裂したーっ!一見おとなしそうな女性ながら、心の奥底に燃え立つのロック...いや、パンクロックの炎!それが、この戦いで見られそうだ!
その前に、まずは内田からの反撃を待ちましょう。かつて「あなたはなぜロックを選ぶのか」と問われ、ただ一言「クイィィィーン!」と答えた内田裕也!『クイィィィーン!』って何だ!エレキか!エレキなのか!それを聞くのはヤボか!
パリに初めてやってきたビートたけしを、エッフェル塔のバーを貸しきって歓迎する男、内田裕也!
東京タワーの喫茶店を貸しきってセイン・カミュを歓迎するオスマン・サンコン!これと同じ図式だ!ロックのカッコよさに理由なし!コレでよし!さあ、このあたりで彼の伝説、『都知事選・政見放送』アタックをお見舞いするのかっ?
1991年・東京都知事選の政見放送で、テレビカメラを前に、突然コブシを握って「♪パワートゥザピィポォ!パワートゥザピーポー」...ジョン・レノンを、ささやくように1番丸々歌った、あのアタックをもう1度!どうしてコブシを握っているのにウィスパリングヴォイス!是非もう1度見てみたい!...あっ、大人しくなってしまった!どうやら、永遠のロックンローラー内田裕也は、奥さんの前では、なかなかいつものようにはいかないようだ!
さあ、こうなったら樹木希林はとまらない!一気にロックンロールで片をつけようとしている!そして取り出したのが、ヒロミGOとのかつてのデュエットソング、「お化けのロックンロール」!『権利・敷金は未納だが墓石ベッドは寝心地がよろしくない』そんな内容だ!省略しすぎか!微笑んでも無表情でも気持ち悪い!←最大限の賛辞。でも怒っているところは見たことがない!マネできん!彼女のパンキッシュな怒りの炎は、全て別のものに転換されて表出する!それが「お化けのロックンロール」のヘンテコダンスか!
さあ、メインイベント、リングの真ん中で、夫婦のにらみ合いは膠着状態!仕掛けるのはどっちだーーーっ!
(*全ての対戦カードはフィクションです)
枯れた味。分かりやすく含蓄のある言葉。そんなモノは、この人たちに必要ないことが、お分かりいただけただろうか。
枯れるのも老いるのも、すべては自分の心持ち次第。いつも心にロック魂を。そうすれば、死ぬまで右肩上がり。寿命まで大きくなり続けた恐竜たちのような人生を満喫できるだろう。爬虫類万歳。脱皮万歳。恐竜は脱皮しません。ああ、いやな結論。