以前に近年言葉から身体性が失われているという井上ひさしの話を引用したことがありました。

言葉が行動による体験によって獲得されていないと。簡単に言えば、言葉を発さずにできてしまうことが増えすぎたと。

 

僕は昔から身体のことについて書かれた文章が好きです。

鼻がかゆいとか腕の骨折れたとかヒゲが伸びたとか小指の爪が潰れてるとかチンコが臭いとか血管が浮き出てるとか脳みそには痛覚がないとか、そういう身体そのものの話と、あとは身体感覚とか病気の話です。


 

「あ、携帯のバイブが鳴った」と思って見てみると全然鳴ってなかった、気のせいだった、ということはわりと身に覚えのある方もいらっしゃるかと思いますが、あれは自分にだけ起こった「気のせい」ではなくて、『ファントム・バイブレーション・シンドローム』と呼ばれる、よくある現象です。日本語で言うと、『幻想振動症候群』です。カッコイイですね澁澤龍彦みたい。そこのオタクはこのタイトルでラノベ書いてください。

 

これは単なる習慣づけからくる現代病の一つなんでしょうけど、そういう話が単純に好きです。

 

 

僕はスポーツがわりと好きですが、道具をたくさん使うスポーツは苦手です。テニスや野球やスキーは苦手です。苦手っていうかほとんどやったことないですけど。棒は僕の身体じゃないじゃないですか。信用できないんです。足で蹴ったり手で投げたりは自分の身体ですからミスったら自分の責任だと素直に思えますし何とかしようと思えますけど、器具を自在に操ることにまったく自信がありません。生身で何とかするスポーツのほうが、より好きです。自分でやる場合においては。

 

僕は薬味とか調味料とかドレッシングがドバドバついてる料理が苦手で、生のまま、焼いただけ、のものを好みます。

より高度な技を使えます、とか、より美味しくなります、とかのメリットを推して小馬鹿にしてくる人もいますがメリットで右往左往するものでもない、ただ苦手なものは苦手というだけです。

 

これらのことには共通項があるような気もしています。

何かががまぎれる可能性をできるだけ排除している、という共通項。

ウソがまぎれこむ可能性があるなら、それはやめる。

 

例えば、『恋愛とは』みたいなテーマで人が語るとする。そこにはものすごい勢いでウソがまぎれこみます。

 

「タイガーウッズはセックス依存症だ、病気だから特別なのだ、病人は治さねばならん」とか平気で言う男が平気でいるわけじゃないですか。「捨てるほど金あったら誰だってやれる美人全員とやりたいに決まっとるがな、病気だとすればむしろその反対側のヤツだろ」と言ってしまうと女にモテなくなる。哀れな貧乏人がつくウソですよね。良く分からない人はサウスパークのシーズン14エピソード01をご覧ください。

 

 

このように自発的に混入するウソもあれば、どうやって排除しようとしてもいつの間にかまぎれるウソもある。

でも、「長らく放置していた虫歯を抜いた瞬間どんな匂いしたか教えて」という質問の答えには、ウソがまぎれこむ余地が少ない気がして、素直に聞ける。

 

「ええー?バケツ一杯鼻血出た?すごい!そんなことあんの?」

「小便がバニラの匂い?そんなふうにしか匂わないタイプの嗅覚の人いるんや!すごい!」

 

 

相手が空キレイと思ってることに対して僕はそうですかとしか思わないですが、

小便がバニラの匂いにしか感じられないという話に対しては、ニコニコします。ウソがないと思うからです。

 

そういうことなんだと思います。

 

 

 

........

 

 

........

 

 

このエントリーは、

メルマガ 山本山本佳宏『二十一世紀の未読』

本日配信分の一部を抜粋したものです。

 

全文は是非、メルマガでお読みください。

 

★登録:http://www.mag2.com/m/0001310550.html