■■ 序 ■■

 

死ぬまで寝ていたいぐらい寝るのが大好きです本当は。ずっと寝てたら後悔とかあれやらなかったこれできなかったとか苦悩しなくてすむじゃないですか、何らかの失敗による結果を味わうこともなくただ寝る。布団にへばりついて寝る。おいお前2億円借金することになったぞ、寝る。おいお前アサシンに追われてるぞ、寝る。おいお前お風呂お湯あふれてるぞ、寝る。おいお前お母さんがテニススクールのコーチと駆け落ちしたぞ、寝る。どんどん寝ていく。すごい寝ていく。死ぬまで寝ていく。万能です。やっぱり寝るって素晴らしいですよね。

やりたいこととか好きな人とか出会ったり別れたりの喜びも悲しみも感じることなく寝ていたい。ねえそれってつまんない人生なんじゃない?生きてると言える?みたいな寝屁のような質問には寝屁で返事をしてまだまだ寝ていく、聞こえない、寝屁は聞こえない、それぐらい好きなはずでした、というのをさっき久しぶりに乗った夜の山手線で隣に座っていた男が怒ったキリンのように首をブルンブルン振り回して僕の肩に側頭部辺りを散々ぶち当て続けたあげく品川で走り降りていったのを目で追いながら考えていたのでございます。謝れよ。謝れよ。謝れよ。同じく雄々しいキリンのオスとして首振り回して対抗しなかったのを感謝しろよ。感謝しろよ。感謝しろよ。バチーン。バチーン。バチーン。すいません。すいません。すいません。

 


 

 

寝るという行為には本質的な恐怖がつきまとう。

このまま自分は、二度と目覚めないんじゃないだろうか。それとも目覚めるか。どっちだ。

いや目覚めるんですけどね、でも目覚めないでしょ。目覚めた人しか返事できないんだから。

 

いわばギャンブルとして寝る。外れりゃ二度と起きない。

ほとんどの人が無意識にどでかい博打を毎晩打ってる。

毎晩だ。これまで毎回勝ってきたという根拠のない驕りが確率二分の一の鉄火場に慣れと飽きを加速させる。

 

意識があることをもって自分が生きてると認識する以外に方法がないから、

寝ているということは死んでいる。眠りにつくということは自殺するのと同義だ。

幸運にも朝起きて必ず意識を回復する保証なんかどこにもないのによくそんな顔してあなた熟睡しながら俺は今生きてるんだと感じられますかってんだ。何なのその語尾。

 

 

 

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このエントリーは、

メルマガ 山本山本佳宏『二十一世紀の未読』

本日配信分の一部を抜粋したものです。

 

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