風「クリエイティブって何ですか」

ロック「なんだよ突然」

風「いや、考えてみると、結構不思議な言葉じゃないですか」

ロック「どこが」

風「『けっ、横文字とか使ってチャラチャラしてんじゃねーよ』みたいな斜に構えた意見が...

ロック「...効果的じゃないわな。全方位的に善だよ、クリエイティブは」

風「私は憧れられて当然よ、さあ憧れなさい、という生まれ育ちの良さを感じますね」

ロック「憧れているのか、クリエイティブに」

風「はい」

ロック「どれほどに」

風「身を焦がすほどに」

ロック「例えば」

風「例えば...左利きにはクリエイティブな魅力を感じます」

ロック「ほう。ステレオタイプな意見だな、それは」

風「だからこそ、探ってみたいんです」

ロック「そうか、ならば、気が済むまで探ればいい。左利きとクリエイティブの関係を」

風「わかりました。それでは失礼します、ロック!」

ロック「う、うん...

 

左利きの人間を見た瞬間の、ある種の甘酸っぱさとともに胸焦がす感触...「あー、あいつ何かひらめきそう」。右利きの人間は、誰しも通過する感情である。

果たして、本当に左利きはクリエイティブなのか。ある種のストーカーにも似た衝動を存分に生かして、徹底的に検証してみたたたたたたたい。

 

 


 

検証1:『左利き=クリエイティブ』というイメージの理由

 

よく知られた話だが、目や耳と同じく、右手は左脳と、左手は右脳と、クロスして繋がっている。何でクロスするんだよ!天に唾してみた。しょうがないよ、クロスしてるんだもん。そこは神様だけの秘密にしとこうよ。法王さまー!!...そんなわけで、利き腕。クロスはさておき、「利き目」や「利き耳」よりも、「利き腕」が脳に与える影響のほうが、圧倒的に大きいことは解明されつつあるらしい。その、左利きの影響でツンツンされている張本人。右脳の役割として挙げられているものは...「情報の並行処理」!「全体像の把握」!「空間・音楽・図形能力」!行けい、右脳!...右脳のヤツも、なかなかやりますな。

 

 

検証2:ある芸術家の証言

 

とはいえ、本当に右脳が発達すれば、クリエイティブになれるのだろうか。

 

そんな、一抹の不安を拭い去る、ある著名な芸術家の貴重な証言を、今回入手することに成功した。

 

NYにもアトリエを構え、世界的高級ブランドともコラボレーションし、日本のオタク文化をアートにまで高めた、日本現代アートの担い手...とでも言えば分かるだろうか。まずは先に、彼が右利きであることを述べておきたい。

 

さて、彼が今ほど著名でも金持ちでもなかった頃...ただひたすら、自分のアートに打ち込んでいた頃、ひょんなことから、病院でCTスキャンを受けることになった。一通りの検査を終えたところで、医師は彼に一言。「右脳が尋常じゃなく大きく垂れ下がっている、あなた芸術家でしょう」。

 

それから数年後。前述のような大ブレイクを果たした彼は、つい先日、人間ドッグに入り、CTスキャンを受けた。

 

昔、『右脳が大きく垂れ下がっている』と指摘された体験が。ことのほか誇らしかった彼は、医師の顔をじっと見つめる。医師も彼の顔をじっと見つめる。一瞬の永遠。時が止まった。

 

いたたまれなくなった彼は、恐る恐る、医師に問いかける。

 

「あのー...僕の脳みそ、どうですか?」

 

「脳みそ?大丈夫。至って健康ですよ。安心して」

 

「いや、そうじゃなくて...カタチがどうとか、人とは違うところとか...

 

「え?何だお前コラ」

 

「いや、あの、右脳の大きさ...

 

「右脳?普通だよ普通!至って普通普通普通普通普通...(エコー)」

 

ブレイクを果たし、会社を設立し、社員を雇い、経営面に頭を悩ませる時間が多くなった彼の右脳は、一般人のそれと変わらぬ大きさにまでしぼんでいた。

 

一部脚色した部分もあるが、これは、芸術家である彼の実際の体験談である。「クリエイティブなことを続ければ、右脳は発達する」ということを、雄弁に物語っているのではないだろうか。

 

 

検証3:左利きの偉人たち

 

左利きであることによって、バンバン右脳を刺激しまくっているんだから、さぞや大偉業を成し遂げたクリエイティブな人物が続出なんでしょうな。そんなヒガミっぽい目で、左利きの偉人たちを探してみた。

 

 

・アレキサンダー大王

 

いきなり「大王」来たー!『あ、ひらめいた!ペルシャ帝国やっちゃおうぜ!』

 

・ナポレオン・ボナパルト

 

「皇帝」来たー!『あ、わかった!冬にロシア攻めちゃおうぜ!』(←失敗)

 

・レオナルド・ダ・ヴィンチ

 

「天才」来たー!『あ、そうだ。モナリザ、いつもより頑張って描いてやるから座れよ』

 

・ミケランジェロ

 

......何か来たー!...えー...あ、分かった。『最後の審判』の人。

 

・トーマス・エジソン

 

「発明王」もやって来たー!『俺の右脳はー♪ポコポコ生むぜー♪発明をさー♪(鼻歌)』

 

・パブロ・ピカソ

 

「ヘタウマ」来たー!...ヘタウマってやめなさいよ。『あ、ひょっとして、目とかハミ出しててもいいんじゃん?』

 

・松本人志

 

『左利き=クリエイティブ』のイメージを、日本人に決定的に植え付けた人。

 

・坂本龍一

 

日本が世界に誇る「教授」も、やはり左利きでした...というよりも、『アホアホブラザーズ』は兄弟揃って左利きだったと。

 

Gackt

 

ガックンまで!お肌もツルツルだが、右脳もツルツルしてそう。シワがないってことじゃなく、お手入れとかで。

 

・角野卓三

 

感性あふれるオタマさばきに包丁さばき。彼の創作料理なくしては、『幸楽』は立ち行かない。

 

・養老孟司

 

『バカの壁』がバカ売れした脳神経学者は、自分の右脳のコトをどう思っているのか...

 

・アンジェリーナ・ジョリー

・キアヌ・リーブス

・ジュリア・ロバーツ

 

何じゃいお前ら!ハリウッドの一流どころが、揃いも揃って左利きかい!...漂うセレブ臭には、不毛な嫉妬心がこみあげるのが常だが、左利きということならば、何となく許せるような気もする。「才能ある人は金稼いだって仕方ないわ」みたいな。

 

 

・トム・クルーズ

・ニコール・キッドマン

・ブルース・ウィリス

・デミ・ムーア

 

...離婚した、左利き元夫婦2組。「あいつー...夢みたいな話ばっかりしやがってー!」とお互い思っているのだろうか。左利き同士は、結婚したがるが離婚しがち...という仮説も成り立つ。たった2例でか。

 

 

・甲斐よしひろ

 

・松崎しげる

 

ギターは、右利き用のモノを左弾き。一見ワイルドで器用そうだが、普通の右利きの人だって、最初に持ったのが左利き用なら、同じ結果になるんじゃないかとも思うがどうか。

 

 

・スペースコブラ(from『スペースコブラ』)

 

サイコガンを仕込んだ、『義手』の左手が利き手とのこと。左手からぶっ放すたびに、右脳への刺激は物凄いことになっていそうだ。

 

 

・タルるートくん(from『まじかる☆タルるートくん』

 

奇抜な魔法に奇抜な言動。が生み出されたのも、タルちゃんが左利きだったおかげだろうか。でも、あいつは右利きか左利きかなんてどっちでも関係なさそうな気もする。

 

・テリーマン

 

テーキサース!正統派過ぎて、なんの感性も感じられないテリーマンもなぜか左利き。どこかに左利き的なセンスを感じられればいいんだが...はっ!そういえば、仲間が死ぬたびに、リングシューズのヒモが切れてた!霊感の強いテリーマンに乾杯!

 

 

 

検証4:左利きの方に突撃インタビュー

 

憧れは募るばかり。やっぱり、どうしても左利きになりたい!...しかし、当方30歳。独身。ややMっ気あり。そこまでリスキーな勝負に出られる年齢は、とっくに通過してしまった。

 

やはり、最後には直接、左利きの人に、その魅力を聞いてみることにしよう。どうしよう、誘われちゃったら。「なあ、お前も左利きにならないか」。

 

左利きを探しました。発見しました。意外と近くに。ラジオディレクターとして個人的にも尊敬する、金田恒夫氏。すべての作業を左手でこなす、生粋の左利きである。今回のインタビューで初めて分かったが、彼は日本中の左利きが集まる、『Japan Southpaw Club(ジャパン・サウスポー・クラブ 以下「JSC」)』の会員でもあった。

 

 

― 金田さん、左利きって最高っすね!

 

『いいことなんか、ほとんどないよ』

 

― ...なんでそんなにいきなり夢壊すんですか。

 

『ホントに困ることばっかりだしね』

 

― 夢が砕けてしまいそうなので、質問を変えます。金田さんはJSCの会員だそうですが、やっぱりみんなが集まると、ビシビシとクリエイティブな感じなんですか?

 

『いや別に。普通の人たちの集まりだよ。際立ってクリエイティブ、みたいな特徴はないです』

 

― じゃあ、「左利き=クリエイティブ」みたいなイメージを持たれてることをどう思いますか?

 

『別に、みんながみんな、すごくクリエイティブなわけじゃないから別に何とも思わないのが半分と、ラッキー半分』

 

― ラッキー?

 

『何にも考えてなくても、なんとなくクリエイティブなコトを考えてそうに思われるからね。そのイメージに乗っかることもあるよ』

 

― ...ひどーい...これまでの検証が台無しだ...

 

『左利きが脳に与える影響っていうのは、100%解明されているわけじゃないから何とも言えないけど、僕たちくらいの世代って、子供の頃に、右利きに矯正されることが多いでしょ』

 

― 確かに。お箸だけは右とか、筆を持つのだけは右とか。そんな子いた。

 

『今の世代は、そういう風習が薄れてきてるけど、そういう時代を乗り越えて左利きのままの人っていうのは、性質というよりも、家庭環境が大らかで自由で、ある意味クリエイティブだったという要因のほうが、大きいんじゃないかな』

 

― ポポポポポーン!(←膝を激しく打つ音)

 

『僕の父親は元々左利きで、小さい頃に矯正させられたんだって、右利きに。そういう思いを、自分の子供にさせたくなかったって、大人になってから聞いた』

 

― ジワジワジワジワ...(←涙がにじむ音) ウウウ...ところで...ウウ...JSCって、基本的には、どんな活動をしてるんでしょうか?

 

『基本的には情報交換だね。左利き用のグッズとか家具が、どこどこで売ってるとか、そういう感じ』

 

― 右利き用、左利き用ってあるんですか。

 

『大抵の道具は、右利き用に作られてるからね。カメラのシャッターだって、右に付いてるでしょ。ものさしも左から右に目盛りが打ってあるから、左利きの人は、10センチの線を引こうと思ったら、逆算しないといけないんだよ』

 

― 確かに!!

 

『普通のハサミが右利き用に作られてるのは、結構有名な話だけど、左利きの人が、どんなふうに使いづらいのか、知らないでしょ。僕ら、紙にハサミを入れて、ピーーーって滑るように切れたこと、1回もないから。指が釣りそうになる。とにかく、困ることばっかり。』

 

― 左利きって...大変ですね。憧れも冷めてきちゃった。

 

『でも、いいこともあるよ』

 

― 何ですか。

 

『バーカウンターとかで人と並ぶと、左利きって困るんだよ。食べようとするとお互いの肘が当たって』

 

― あ、右肘と左肘ね。

 

『だから、ちょっと離れて座らないといけないんだけど、逆転の発想で、座り位置を反対にすれば、肘が右利き同士以上に、邪魔にならないんだよ。だから、好きな女の子との密着度もUPすると』

 

― ...金田さん、クリエイティブ!

 

 

 

 

 

風「...というわけでした!」

ロック「左利きの人って、遺伝的に右利きよりも少ないっていう前提条件があるもんな」

風「すごくクリエイティブな人が、偶然左利きだったりすると、目立つんでしょうね」

ロック「...そんな結論でいいのか」

風「え?何がですか?」

ロック「あんだけ意気込んでたわりに、こんな冷静な結論でもいいのか」

風「いいんです。答えは必ず、風に吹かれているはずですから」

ロック「お前の名前、風じゃん」

風「あ、これ、あだ名です」

ロック「うそ!俺は本名名乗ってんのに!」

風「うそつけ」