今、日本の子供たちに目指してほしい職業は、YouTuberなんかではなくて、「Twitterの企業アカウントの中の人」だと思うんですよね。あんなに素晴らしい仕事はなかなかありません。職業に貴賎なしという言葉は嘘ですね、Twitterの企業アカウントの中の人こそ、現代の日本における聖職と呼ぶにふさわしい仕事だと思います。

 



 

それはさておき、そりゃあ僕だって、できればご購読のみなさんに、僕の身の回りで起こった、ユニークでユーモラスで風刺の効いた、含蓄があって軽妙で分かる人には分かるマニアックな小ネタが挿入された幸福感に包まれるようなエピソードをお届けしたいと思いますよ。思いますよ。

 

しかしそれが己の欲求なのかと問われれば否であって、サービス精神、ただひたすらにサービス精神からくるものです。

サービス需要があるかどうかは知りませんけど。供給する側からすればそうです。

 

タレントは職業柄、往々にして「最近あった出来事のエピソード」を要求されます。トークバラエティはもちろんのこと、フリートークでの時間つなぎや、そのエピソードを元にした企画などもあって、つまりは日々、身を削って、自分の生活を金に換えていかねばなりません。これがまあ、大変な作業なんですよ。僕らは当然の権利のような顔してそれらを享受しますけども。

 

 

「猫が大好きなんです」

「へえー猫が好きなんですか」

「はい」

「へえー」

「…」

「…」

 

-----アイドル(いるだけで許される観賞用)の壁-----

 

「飼ってらっしゃるんですか」

「はい、飼ってます」

「どんな猫ちゃんなんですか」

「それがー、この前おれのギターの中でウンコしてー」

「大変ですね」

「うちのキヨシみたいなやつだなー、みたいな()

「キヨシ」

「あ、何でもないです、すいません」

 

-----ミュージシャン(斜に構えた内輪ノリでファンだけが楽しむ)の壁-----

 

 

芸能人なんだからエピソードを面白おかしく話せて当然とお考えになるかもしれません。しかしほとんどの場合、それをできることを見込まれて事務所に所属できたり、あるいはオーディションに合格したり、ということはありません。面白おかしくエピソードを話す能力によって見出される、あるいは世に出たいと願う、ということは非常に稀です。

それらは現状において肩書きとなる特殊能力ではなく、全てのタレントに求められ、できないと分かると軽く舌打ちされるといったような能力だからです。

 

面白いオカマがいたから連れて来た、テレビに出した、確かに話が面白い、しかしいくら面白くてもそのオカマは、オカマでなければテレビには出ません。ハーフも同じです。エピソードトークができるからテレビに出られるわけではない。

エピソードトークが面白い、は、みなさまの疑問や違和感や猜疑心を、すくなくとも一枚突き破る肩書きにはなりえないのです。トークバラエティと呼ばれる番組に呼ばれ渾身のエピソードトークをかまして大爆笑をとるためには、肩書きという通行許可証が必要です。なぜなら僕たちは、「何を話しているか」よりも「誰が話しているか」を、より重視するからですよね。

 

 

…何の話でしたっけ。何の話でもありませんでした。今回は終始何の話でもない話になりそうです。




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このエントリーは、

ルマガ 山本山本佳宏『二十一世紀の未読』

本日配信分の一部を抜粋したものです。

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