長男の星・勇 

 

「五月!アンタ嫁の分際でアタシに楯突く気かい?」

「お言葉ですがお義母さん。私の事だったら何言われても構いません。けど、愛や眞のことだけは口出しして頂きたくないんです」

「まったくもう?勇!アンタの嫁の教育がなってないからこんなことになるんだよ!」

「・・・・・・・・・・・・(前髪ペロン)

 

 

【小島勇(こじま・いさむ)】中華「幸楽」の長男。

 

サラリーマンになることが夢だったが、中学卒業後、その夢をあきらめ「幸楽」を継ぐ。

いつも嫁の五月と姑のキミの板挟み。気苦労が絶えないのか、すっかり髪の毛も薄くなってしまった。

酔っ払うと、寂しい前髪ひと束をペロンペロン垂らしながら暴言を吐く。

 

 

so sad...寂しい...あまりにも寂しすぎるぜ勇...お前だけのために、キャンプファイヤーの前でギターを爪弾きたくなるほどの寂しさだ勇。日本全国の『長男』の脳天辺りからモヤモヤと発散された「悲哀オーラ」を、体いっぱいに吸収してしまったかのような表情がテレビの画面いっぱいに映し出されるのを見て、ウヒャウヒャ馬鹿笑いするのが「渡る世間は鬼ばかり」の正しい見方。ホントかそれは。

 

勇だけじゃない。現実世界、いや、クリエイティブ界にこそ、長男の涙はTUNAMIとなって押し寄せている。あトゥナミになっちゃった。まあいいか。

いやいやいやいや、あのね。長男、いないわ、ほとんど。ものすごい勢いでひとりっ子。

確かに聞いたことはある。クリエイターにひとりっ子が多いって。でも想像以上。

でもね勇、大丈夫。だからこそボクは思うんだ。『長男クリエイター』こそ最強なんじゃないかって。

 

今回は、長男クリエイターを応援することにする。そして捧げるよ、勇に。あ、ごめんやっぱり勇に捧げるのやめる気持ち悪いから。

 

 



長男最大のライバル:ひとりっ子考察 

 

くっそー...何だか気が進まないが、まずは敵を知るところから始めよう。

長男だって、生まれてから、最初の何年かは「ひとりっ子」。しかし、弟や妹がウケケケケ...間違えたオギャーと言った瞬間、自らの看板を、いやおうなく『長男』へと変更される。「ひとりっ子」のヤツラ、一体どんな人生を過ごしてきたのか。

 

 

1 「無駄な競争心がなく、感受性が豊かである」

 

...何だとコラー!「兄弟間での葛藤で、妥協を身につけた結果、個性を磨耗させてしまうことがない」だとー?

キン肉マンスーパーフェニックスの首がちぎれるくらいキン消しの奪い合いをして弟がワンワン泣き出して母親が飛んできて何で泣かしたとぶん殴られてスーパーフェニックスを渋々弟にくれてやったらウソ泣きでワーイとか言いながら外に遊びに行ってしまうのをボンヤリ眺めている長男にケンカを売っているのかひとりっ子―――――!

 

 

2 「裕福であるがゆえに選択肢が増える」

 

...何だとコラー!「豊かさは単純計算して、2人兄弟の2倍。3人兄弟の3倍」だとー?

合ってるじゃねーか!ひとりっ子の友達の家に遊びに行ったら当事みんなの憧れだったエアガンとラジコンとマイコンが部屋の中に並んでいて好きなので遊んでいいよと言われ嬉しい反面卑屈に遊ばせていただく自分にどうしようもなく泣きたくなった長男にケンカを売っているな。売っているなと聞いてるんだひとりっ子――――!

 

 

3 「人に媚びず、わが道を行く」

 

...何だとコラー!「オトナの前で、他の兄弟に負けまいとブリっ子パフォーマンスする必要がない」だとー?

イイ子にしてたらオモチャ買ってあげると言われて遊びまくる弟を尻目に必死でイイ子にして勉強して通信簿もまずまず良くてニコニコしながら親に見せに行って褒められてさらにニッコリしていたら通信簿最悪の弟も一緒にオモチャ買ってもらえることになって何とも言えない不条理な気分に陥った長男にケンカを...売ってないとは言わせんぞひとりっ子―――――!

 

 

...このように。カンタンに挙げるだけでも、ひとりっ子の育ち方には、クリエイターとしての資質がテンコ盛り。もう英検4級取るくらいのハードルの低さでクリエイターになれる。敵ながらあっぱれ。だからそんな敵敵言っててホントにいいのか。

 

 

 

ひとりっ子クリエイター布陣

 

...さて。我らが「長男クリエイター」たちの前に立ちはだかる、「ひとりっ子クリエイター」たち。

もうめんどくさいから、目に付いたところいっぺんに言いますね。

 

レオナルド・ダ・ヴィンチ坂本龍一ミケランジェロ村上春樹ジョン・レノン谷川俊太郎ジェームス・ディーン岡本太郎エルビス・プレスリーみうらじゅんココ・シャネル三谷幸喜平間至!!!!!!!!!

 

 

ひとりっ子世にはばかりすぎ!!なんじゃいこのラインナップ!!アホか!!入れときましたよ平間さん!!

 

 

1 レオナルド・ダ・ヴィンチ

レオナルドさんは...いいやレオ様で。レオ様は父親を知らない。生まれたときには母1人。レオ様本人の手記によると、子供の頃はいつも川でひとりボーっと水鳥の観察をしていた。あまりに毎日眺めるあまり、水鳥の動きによって、空気が見えるようになったとのこと。先生―!レオナルド君が、変なこと言ってますー!こらレオナルド!どうして女子に、空気が見えるとか変なこと言うんだ!...しょうがない。だって自分で言ってるんだからしょうがない。何か、水鳥の飛ぶ様子を見てたら自然の法則を悟っちゃったんだって。すげーなレオ様。この悟りもひとりっ子のおかげ。

 

 

2 岡本太郎

ばーくーはつ!ばーくーはつ!死後、さらに評価が高まった天才芸術家もひとりっ子。小学校1年生だけで、高圧的な先生に反発して4回も転校!結局なじめずパリ留学!

「集団になじむために個性を殺すな!1人ひとりが本気で考え、自分の思いを爆発させなければ、世界はつまらなくなる!」

ばーくーはつ!ばーくーはつ!...悔しい!ひとりっ子太郎、イイこと言ってる!真弓負けそう!誰真弓って。

しかし、どこをどう切っても、金太郎飴のようなひとりっ子発言。好敵手となりそうな予感。

 

 

3 三谷幸喜

三谷氏は、幼い頃に父親を亡くしている。つまり母ひとり子ひとりになってしまった。母親は、父の影響でチャップリンが大好きだった三谷氏を「幸喜が早く元気になりますように」ということで、アメリカへ連れて行き、チャップリン本人に会わせた?エ――――!!!!ねえねえねえねえ、ポムポムプリンじゃないですよね?サンリオの。ポムポムじゃなくて、チャッのほうのプリンでしょ?そんなに簡単に会える人?息子を元気付けるためとは言え、その母親の愛情の注ぎ方、ひとりっ子でしかありえない!

 

 

このほかにもですね。『コマーシャル・フォト』という、プロフォトグラファーと広告クリエイターのための専門誌がございまして。注目のクリエイターの人生についてロングインタビューする、『あのとき あのころ』というページがございますんです。そんな趣旨で書かれてございますので、兄弟構成についても当然のように質問されておるわけですが...

 

 

―――――何人兄弟ですか?

「ひとりっ子です」

 

↑こればっか!!!バックナンバーあさってみたけど、クリエイターこればっかり!長男どこにいるんだコレ!形勢悪すぎるんじゃねーのか長男!

 

 

 

長男クリエイター四天王

 

弟、妹が生まれた瞬間、そのクリエイティブな環境が、ダイソンの掃除機で吸われるがごとく失われていく長男。全てのベクトルは、ひとりっ子と真逆に走りだす。

兄弟ゲンカの中で妥協を覚え、個性を磨耗させるのを覚悟して調整役に周り、小遣いは兄弟がいる分多くはもらえず、オトナに媚びて敷かれたレールの上を大人しく走ってしまう長男...極論しすぎか。いいや、今日はあえて言っておこう。

長男クリエイターが歩む道は、茨の道である!あ、読めない人ゴメン、イバラねイバラ。イバラキのイバラ。

そんな茨の道、脱落する者も多いだろうがだからこそ!!長男クリエイターこそ真のクリエイターである!

 

数少ない長男クリエイターの中から、私はこの4人を見つけ出した。これぞ、『長男クリエイター四天王』だと宣言したい!

 

 

★田中秀幸(CGアーティスト):男3人兄弟の長男

 

まず1人目はこのお方!

ヨダレベローンの『スーパーミルクチャン』!『SUPER LOVERS』のアートディレクション!ピエール瀧とのVJユニット『プリンストンガ』!『ココリコミラクルタイプ』『サタ☆スマ』の映像デザイン、『ガキの使いやあらへんで』背景セットなどなどなどなどドナドナ!!!金に困れば牛を売れ!

テレビでCG使うなら田中様!すでにそんな状況!まずはひれ伏せ!

さて...田中様は長男である。まさに時代をリードする長男クリエイターである。

いったいどの辺りに、長男であるがゆえの特徴があるのか...1つのエピソードをご紹介したい。

スーパーミルクチャンの製作現場。田中様がお描きになったイラストを原画から起こす時に、スタッフは驚愕した。

『田中さんの曲線が再現できない...

田中様の曲線は、そんじょそこらの曲線じゃない!簡単に真似できない至高の曲線!それは、長男が故の研ぎ澄まされたバランス感覚のおかげか!おかげだ!長男曲線と名づける!適当な丸描くやつは帰れ!

 

 

★佐藤可士和(アートディレクター サムライ):男2人兄弟の長男

 

キャー可士和様?!アナタもご長男でいらっしゃいますね!もう1度、代表作を紹介させていただきますね!

CMは『ホンダ ステップワゴン』『キリン極生&生黒』、楽天グループ、TSUTAYA TOKYO ROPPONGIのアートディレクション!問答無用のスター・クリエイターも、やっぱり長男でいらっしゃいました!

周囲の空気を読んで、非常にサービス精神旺盛なトークをしていらっしゃるのを拝見して、薄々長男じゃないかと疑いの目を向けて探偵を飛ばしたりマイク仕込んだりパンツを盗んだりしておりました捕まりますねそろそろ。

先月発売された『ひとつ上のアイディア』という本の中で、可士和さんは、こう語っていらっしゃいました。

「表現のレベルで作りたい作品などない。作りたいものがあるとすれば、それはプロジェクトの成功」

言えませんよなかなか!完全に後付けで言うと、どっからどう見ても、兄弟の幸せを願う長男の発言としか思えない!

長男万歳!弟になりたい!

 

 

★竹内スグル(映像ディレクター):妹1人の長男

 

スグル様!本名は秀とかいてスグル様!グンと読みやすくしたその気配りこそ長男!

...とか軽口叩くのもおそれ多いほどのミュージックビデオ&CMの大巨匠ディレクター。

ラルクでしょ、TRICERATOPSでしょ、JUDYMARYでしょ、SUPERCARでしょ...CMで言えばユニクロ、資生堂、サントリー...最近では、オダギリジョー出演の『ライフカード ハーモニカ編』がカッコよかった!

このスグル様が長男じゃないかと疑い始めたのは、今年始めに開催された、タワーレコード『No Music, No Life写真展』イベントのとき。『ザ・竹内対談』として、同じく映像ディレクターである竹内鉄郎さんとの対談が行われました。その時の演出スタイルについての話。

鉄郎さん「出演者とは、わざとコミュニケーションしない」

スグル様「ぼくはコミュニケーションを大切にしている」

あれ...?コミュニケーションを大切に?カダンカダンカダン。お花を大切に♪

ちょっとおおおお!これは長男発言ですよおおぉぉぉ!

 

 

★神谷佳成(CMディレクター):弟1人妹1人の長男

 

4人目!また巨匠見―つけた!ボールをパートナーにバッコンバッコン当てる03年『UFJつばさ証券 テニス編』&手裏剣をパートナーにぶっ刺す04年『UFJつばさ証券 忍者編』で、カンヌ国際広告賞・2年連続入賞!モーグルで言えば里谷多英!なんで里谷!

神谷様の主なCM作品を並べてみよう。『きっかけは、フジテレビ。』『どうする?アイフル』『パチンコの平和 ライオンとシマウマ編』『午後の紅茶 あやや編』...ラインナップをじっと見つめる。じっと見つめる。じっと...じっと...ぬおおおおおお!3Dに見えてきたー!無理でしょ。どうやっても。『ききっっかかけけは、、フフジジテテレレビビ。。』←暇な人はこれで試してください。

閑話休題。

なんか...どの作品も...あったけーなー...人間としての温かみというか包容力というかホッコリユーモアというか。断言する。これは長男パワー。ギスギスしてない。

神谷様の生い立ちをひもとくと、中学時代から、部活動、入部しては挫折して転部の繰り返し。断言する。この挫折に耐えて好人物でいられるのは長男パワー。大学では映画研究会。でも、何となく撮影している現場が好きだっただけで、出演してるだけで満足。脚本&監督経験はほぼなし。この全体の幸せを祈る長男的な感じ。もう間違いなし。四天王にはふさわしい。

 

 

 

あったらいいな、こんな勇

 

母:  五月!アンタ嫁の分際でアタシに楯突く気かい?

五:  お言葉ですがお義母さん。私の事だったら何言われても構いません。けど、愛や眞のことだけは口出しして頂きたくないんです。

母:  まったくもう?勇!アンタの嫁の教育がなってないからこんなことになるんだよ!

勇:  母ちゃんの言うことはよく分かる。それを踏まえた上で問題点を明らかにしていく、というのは、みんなどうだろうか。

母:  勇...

五:  あんた...

勇:  まず、俺が嫁の教育以前に、シューマイ以外上手く料理が作れない、という問題点がある。これをどう思う?

母:  練習しな。

五:  練習しなよ。

勇:  (前髪ペロン)...OK。話は承っておくよ。

さて、もう1つの問題点なんだが。俺は中華料理には、生まれつき向いてないんじゃないかと思う。

ここは素直に受け入れて、幸楽をアジアン雑貨店にリフォームしようと思うんだが、みんなの意見を聞かせて欲しい。

母:  アジアン雑貨?冗談も休み休みに言うんだね!

五:  あんた、どういう風の吹き回し?料理の練習しなよ。

勇:  ...わかった。じゃあ、みんなの意見を反映させて、シューマイ型のアクセサリー専門店にしようじゃないか。

きっと、みんなが幸せになれる結果だと思うが。

母:  ...冗談も休み休みに言うんだね!

五:  このバーコード頭!

勇:  俺たち、本当の家族になれる。やっとそういう時が来たような気がするな...(遠い目)