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 美容室の床に落ちた髪が美味しそうだ、と物心ついた時から感じていた。濡れた髪がいくつもいくつも笹の葉のように白いクロスにはらりと落ちて光っている。幼い私は息を飲んでおずおずとそのうちの一束を指で摘まみ、飽きもせずじっと眺めた。じっと眺めた末おもむろに舌を伸ばして笹の葉を口に運ぼうとして母に手をはたかれ泣いた。泣きながら隣で髪を切っていた女の周りに落ちた大量の毛をギロギロと横目で見ていた記憶。一人で髪を切りに行くようになって髪を濡らさず切るようになって、スライスチョコのような繊細な食べ物に生まれ変わった髪の毛を見た時の初恋にも食欲にも似た記憶。